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それがそうなら16
呼び止めても、慎也は人の多い道から脇道へと入って行く。人もいない路地裏を奥へ奥へと進んでようやく静かな所まで来て止まった。
「あんなところで発情するな」
振り返った慎也が口元を手で覆った。
「え?」
自分は発情した覚えなんて無い。
ましてや、発情期の無い僕が発情フェロモンを出せるはずもない。
「発情期が近いのか?」
慎也に問われても首を横に振るだけだ。
「無意識と穂高は言ってたが……厄介だな」
慎也はため息を付いて、僕から数歩離れる。
さっきまで近かった距離が離れて、僕が数歩近づく。慎也はまた下がる。
「おい。そこから動くな」
慎也に強く言われて後ろに下がった。
心もとない距離にうつむく。慎也は怒った様な困った様な顔で僕を見て、「飲み物はどこで売っている?」と聞いてきた。
「多分、どこかの店にありますけど」
人通りのない路地には自動販売機は見当たらない。
「側にあるのか?」
慌てた様子の慎也に、「喉がかわいたんですか?」と聞く。
「ちょっと、待っていろ」
慎也はそう言うと、さっき買ったばかりのマグカップの入った紙袋を僕に預けて、今抜けてきたばかりの路地を繁華街の方へと走って行った。
どうしたんだろうか。喉が渇いたにしても、慎也はコーヒーを飲んでいたはずだ。
こんなところで待っていろなんて……。
発情するななんて……。
無自覚に発情フェロモンを出しているのだろうか。クンっと自分の匂いを嗅いでみても変わりはない。
この間の電車でも、『いい匂いさせてるな』なんて言われたけど、もしかして、僕は自分が気が付いてないだけで、発情期があるんだろうか?
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