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それがそうなら17

 そんなはずは無い。  だって、誰でもいいから欲情するようなヒート現象を起こしたことも、セックスしたいと思ったこともないのだから。  慎也が、あんなところで発情するななんて言ったけど、僕は発情なんてしてない。  ただ、慎也に言われたことが嬉しかっただけで……。  慎也のことで嬉しくなるなんて……。  慎也はいつも怒っているような、いらついているような態度ばっかりだ。今日はそんないつもとは違う雰囲気で戸惑っただけだ。  慎也が、俺の番だって僕を選んだりするから戸惑っただけだ。  思わず頷いた。それが嬉しくて。  僕は、慎也に……魅かれている……のだろうか。  魅かれ合う運命。それが運命の番。  僕が慎也に惹かれても仕方が無いことだけど、慎也は、慎也はどうだろう。  バクバクと胸が熱くなる。  渡された紙袋の持ち手をぎゅっと握りしめる。  慎也、早く戻ってこないかな。  慎也の走って行った方向を見やってもその姿は無い。  まさか、さっきの女性を追いかけて行ったんじゃないだろうか。  喉が渇いたなんて言い訳で、さっきの書店のコーヒーを取りに行って、あの女性と落ち合うって隠語だったんじゃないか。  僕をここに置いて帰ったんじゃないだろうか。  こんなところで『いい匂い』なんてさせているΩが誰かに襲われる可能性は高い。どこででも発情するΩって見下したんだろうか。  見下して、捨てられたんだろうか。  顔を上げて繁華街の方を見る。  不安になってしばらくそっちを見ていると人影が近づいてきた。

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