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それがそうなら18

「あ、慎也さん」  慎也が路地に入ってきたところだった。 「お前、少し、落ち着けよ」  慎也は手に紙コップを持っている。それは繁華街の中にあるショップ名がプリントされているジュースだった。 「抑制剤、持ってるか?」  慎也に言われてポケットを探る。今朝、飲まなくてもいいけど、念の為とポケットに入れてきていた。 「これ」  錠剤を取り出すとジュースを差し出された。  慎也がわざわざ馴れない繁華街でジュースを買ってきてくれたことに驚いたが、「飲んで大丈夫かな」と不安になった。  これまで一度も抑制剤は飲んだことがない。  できれば飲みたくない。  ためらっていると、「誘ってるのか?」と慎也に言われた。 「そうじゃないです」  言い返しても、なかなかそれを口に入れることができない。  慎也がじっと僕を見ている。  どうしよう……。  発情期が来ていなくても、αの慎也が驚くほどのフェロモンが出ているってことだから、飲んだほうが安全ってことだろうか。  だけど、これは発情期を抑えるための薬だ。発情期じゃない僕が飲んで大丈夫かも分からない。 「……家に、帰りましょうか」  飲まずに済む方法を考える。  このままタクシーを拾って家に帰ったら収まるんじゃないだろうか。  αの慎也がいるけど。 「それはなんだ。家に帰ってやろうってことか?」  慎也が眉間に皺を寄せている。  数歩下がってはいるが、慎也は明らかにフェロモンに充てられている。  いつもとは違う赤らんだ顔がそれを伝えている。距離を取って顔を手で覆ってはいるが、慎也の息は荒い。 「……違います」  穂高を呼んだほうがいいだろうか。  ああ、でも、穂高もαだ。 「僕だけ……家に帰ったらだめですよね?」  錠剤を握りしめる。 「それをさっさと飲め」  慎也に言われて、握りしめた手を開いて錠剤を見つめる。 「あの……」

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