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そういうことだから2
壁に背中と後頭部を打ち付けて、ズルズルと地面に座り込んだ。慎也は穂高に引きはがされて、背中から羽交い絞めにされている。
見上げて見下ろした慎也と目があった。
興奮に色づいた目元と、熱を持った瞳に射貫かれる。
車から降りて来た別のスーツの男が僕を引き起こした。穂高が慎也を車に押し込んで、ドアを閉めた。
「な、なに……」
急に冷める熱。
「抑制剤は飲まなかったんですか?」
ジュースと一緒に地面に落ちていた錠剤を穂高が拾った。その声は怒りに満ちている。
「……ごめんなさい」
「こんなところでショーでも行うつもりだったんですか?」
「そんなつもりは……」
このまま穂高が止めに来なければここで……。
「ごめんなさい」
改めて謝るが、「別の車を呼んであります。すぐに帰ってきてください」と言って、慎也を乗せた車の運転席に乗り込むと走り去っていった。
僕を引き起こしたスーツの男は、「大丈夫ですか?」と俯いた僕を気遣ってくれた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
ジーンズはこぼれたジュースの上に座り込んだせいでシミができて汚れていた。カバンから取り出したハンカチでそれを拭き取る。
自覚が足りなかったのだろうか。
僕は確かにΩだけど、発情期もこれまで無かったし発情したことも無かった。
だけど、慎也と出会って、運命の番に出会って、発情を知った。
戸惑うばかりで自分の気持ちが追いつかない。
慎也に対する気持ちもさっき気がついたばかりだ。いくら運命の番でも、発情期の無い僕が発情するなんて思ってもみないことだった。
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