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そうやって、そうなって5
「運命の番なんて徳重家からすればただの言い訳でしかないんだよ」
「言い訳?」
「誰かと番ことを嫌がる慎也がやっとその気になったっていうことだよ」
「慎也さんは番う気は無いって事ですか?」
僕には発情期はいつだって何度も迫ったのに。 出会って3日後には婚姻届を持ってきたのに。それは、徳重家が慎也に結婚を無理矢理進めていたってことだろう。だから、慎也は時間をくれるって言って自分の結婚を先延ばしにしたんだ。
「慎也は自分の好きな設計の仕事ができれば他に何もいらないんだよ。徳重家の乱れた性に振り回されて、アイツにはすでに子どもがいる。どれも無理矢理に作らされた子どもだよ。番ってはいない。バツイチでもない」
子どもがいる。無理矢理に作らされた子ども。
「子ども……いるんですか」
ショックだった。番ってはいなくても、結婚もしていなくても子どもがいる。
「αはいないよ。相手はΩだけど噛みついてないからαの子どもはできなかった。無理矢理だったしね。慎也は徳重家を捨てて出て行ったけど、本家のαは慎也一人だから徳重家が離さなかった。性に関してかなりナーバスだし、自分の子どもや番を望んでこなかった」
僕に対しても他に相手がいるんじゃないかと何度も疑った。無理矢理に番おうとしなかったのはそのせいか。
結婚も待ってくれた。
「本家の跡取りが、迷信のような『運命の番』となら番うなんて言っていたのに、本当に出会ったんだ。徳重家は理由なんてどうでもいいんだよ。相手がΩならね。慎也がその気になりさえすればね」
相手がΩなら理由はいらない。本家の跡取りを残せるなら誰でもいい。僕がΩでさえあれば、αの子どもが産まれる可能性がある。徳重家がαの家系であり続けるために。
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