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そうやって、そうなって6
だけど、慎也はそれに抵抗するために、『運命の番』となら番うって抵抗してたってことか。
都市伝説とまで言われる信憑性にかけるものにすがってたってことか。
「慎也は凛人君となら番ってもいいって思ってるよ」
智晴は僕を正面からじっと見つめる。いつものふざけた面白がっている雰囲気は微塵も感じられない。
「そんなこと分からないよ」
僕はそんな自信はない。嘘をついて傷付けた。それはこれまでのΩと同じだ。未完のΩだって黙って騙して慎也の番になることを望んでしまった。
「じゃなきゃ、『嫁』なんて紹介はしないよ。番ってもいい、結婚してもいいって思ってる」
慎也が僕を選んでくれた。
『お前は俺の番だろう』と選んでくれた。
「だけど、僕は発情期の無い未完のΩだよ」
αの跡取りが欲しい徳重家からすれば僕は邪魔者だ。
「慎也は待ってくれてるだろう?」
結婚も発情期も慎也は待ってくれている。
小さく頷いた。
「運命の番なんて言い訳でしかないんだよ。好きか嫌いかなんだよ。凛人君はどっちかな?」
ふふっと笑って、「もし、うまくいかなかったら僕のところにおいでよ。出来損ない同士うまくいくと思うよ」と言った。
「そうですね。もし白紙になったらここで雇ってください」
慎也がこだわりを持って設計したこの建物。随所に感じられる使う人への優しさと心地よさ。
設計の仕事がしたいと僕も思っていたけど、慎也を目の当たりにすると足元にも及ばないことを痛感させられる。
勉強にはなるけど、家に帰されて外に出るのも人に会うのを怖くなってしまった僕にはもう無理だと思う。
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