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そうやって、そうなって7

 だけど、智晴とだったら楽しく過ごせそうだ。 「いつでもどうぞ」  智晴は笑った。 「もう少しここにいてもいいですか?」 「いくらでもどうぞ。僕は店の準備をしてるから帰りたくなったら声をかけてね」  僕は頷いた。  検査を受けるために穂高が迎えに来たのは、実家に帰されて1周間が過ぎてからだった。  車に載せられて、「検査結果ではこの度の結婚については白紙となりますが、徳重家から最大の援助をさせて頂きます」と書類を渡された。  中には僕のために用意された新たな就職先と生活のための資金援助、Ωの為の結婚相談所などが書かれていた。Ωというだけで、就職も結婚も容易ではない。  慎也との結婚が破談になれば、露頭に迷うことは明白だから、こういった援助は是が非でも必要だけど、僕は見る気にもなれずに、カバンに押し込んだ。  男でも妊娠可能なΩを扱う特別な病院。  妊夫だけじゃない。発情期の抑制剤やαのための抑制剤の扱いもあって、受診する患者は多い。  この病院にもΩと診断されて、誤診を疑って再検査に来たことがあった。最新設備の整ったそこはまるでホテルのように清潔で綺麗だ。  だけど、どこか冷たい印象だった。  またここに来るとは思わなかった。僕はため息をついて穂高の後ろを付いて行った。  穂高は、「予約してあります」と言って、特別棟へと進んで行く。  特別棟は普通の診察室とは違い、個室にベッドも医療器具も用意されていて、完全なプライベート空間となっていた。

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