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降りた場所を少し歩くと、なんとなく見覚えのある風景に突入する。 「あれ…ここ…」 どこだっけな?と周りを見回していると、 「お前と初めて会った場所の近くだ」とガウが振り返った。 (あ…そっか…) そうだ。あの木の根元で枝やキノコ採って…それからあっちに行ったら熊が出て… …それから、ガウに出会ったんだ。 思い返すようにあの日自分が通った道を目で辿る。 「…あそこは草で隠れているが、すぐ後ろが崖になってるんだ」 「そうだったんだ…」 そう言われて今見ても、やはりその先が崖だなんて見た目だけでは分からない。 (…あの時、最初にガウが動かなかったのはきっとオレをあれ以上驚かさない為で…) (その後ガウが動いたのは、あのまま進めば崖一直線で落ちちゃうって知ってたからなんだろうな…) ガウの優しさを知った今あの時のことを思い返すと、ガウは最初っからオレに優しかったんだなぁと思い知る。 それだけに、最初敵意や恐怖をむき出しだった自分が情けなくも恥ずかしくもあった。 少し回想にふけっていると、 「…急ごう。そろそろ人間が起きてくる。そうすればお前の家まで送っていけない」 「え…ぁ…うん」 そう急かされて慌ててガウの隣に並ぶ。 「ここから先は場所が分からない。…お前の家はどっちだ」 「あ…オレもちょっと迷っちゃってたんだけど…多分、あっちかな」 今度はオレが先頭に歩き出すと、ガウは黙ってついてきてくれた。 時間がないのにここでお別れしないのは、この森では狼などの夜行性の危険な動物や野性的な魔物が出る可能性があるからだろう。 (…どこまでも優しいんだな…) 「…エルタ」 「っえ!何…っ」 突然名前を呼ばれたことに驚いて振り返ると、昇り始めた陽のせいでガウが少し逆光の様になっていた。 元々ガウはとんでもなく美しいのに、空には薄黒い夜空を抱えたまま後ろから優しく光が差すそれがあまりに神秘的で…思わず息をするのを忘れる。 「…ここから先、もし人間と出会ったら…お前はオレと他人のフリをしろ」 「…え…なんで…?」 ようやく息を吸い込みながら慌てて返事をする。目の前にあるガウの顔はやはり神秘的で現実離れしていたが、いたって真面目な顔をしていた。 「…まだまだ人間は魔物に対して偏見がある。お前がオレと一緒にいることは、良いように思われないだろう。オレはなるべくすぐに離れるから、お前は人間と帰るんだ」 「え…でも…」 「…もし会ったら、の話だ。この時間ならまだ大丈夫だと思うが、念のためにな。…ほら、急ぐぞ」 「……うん」 納得しきらないままガウに背中を押されて、慌てて先に足を進める。 道を思い出しながら進んでみたものの、やっぱりオレは帰り道を覚えきれていなかったようで…途中で何度も道を引き返し、結構な時間をロスしてしまった。 「ごめん…ガウ…今度こそこっちで大丈夫だと思う」 「あぁ。…足は大丈夫か?怪我をしてからこんなに長く歩いたことなかったろ」 「…うん。大丈夫だよ」 オレのせいで陽はどんどん昇ってきているのに、オレを責めるどころかそんな優しい言葉をかけてくれるなんて。 ガウの優しさを再実感しながら木の間を進んでいくと、ようやくオレが良く見知った風景に変わった。 「ガウ、こっちで合ってた!ここ家の近くだ!ここからだと…あと7分くらいじゃないかな」 「そうか。良かった」 振り返った先にいるガウの手が、すっ…とオレの頭に伸びてきたので、反射的にぎゅっと目をつぶる。 「………」 「………葉っぱだ。ついてた」 「え…あ、うん。ありがとう…」 「………」 「………」 ガウに少し触れられただけで、心臓がこんなにも騒がしくなるなんて… ようやく知ってる場所へ出たというのに、一度止めてしまった足を動かすことができなかった。 …だって歩き始めたら、あっという間に家に着いてしまうから。 (ずっとこのままでいれるハズもないのに…) それが分かっていてもどうしても動き出すことができない。 どうにもできない自分の気持ちを押し込めようと、きつく目を閉じながらギュッと手を握りしめ、ゆっくり深呼吸をした。 「……ふぅ…」 「……?エルタ…?」 「………」 動こうとしないオレを心配するように、ガウがオレの顔を覗き込もうと一歩踏み出したその瞬間… パン! パン!パン!パン!! 乾いた大きな音が響き渡り、それと同時に木々で休んでいた鳥たちがざわざわと一斉に飛び立った。 慌てて音のした方を見ると、50m程先の木陰から少し顔を覗かせるようにして、拳銃を持った3人の男性がこちらを睨み付けていた。 3人の銃口は完全にこちらを向いていて…先程のはその銃を撃った音だったのだろう。 拳銃の先からは白い煙が立ち上がっていた。 「その子から離れろ、化け物め!」 1人の男性が大声で叫んで、漸くその銃口がガウに向けられたものだと知る。 (まさか…っ) 慌ててガウの方を振り向くと、真っ白なワイシャツの右胸に黒い穴が開いていて… そこを中心にワイシャツの白はあっという間に、赤に染まった。

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