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7.番《つがい》の夜(後)

「いつになく情熱的だったな」  二人が風呂で体を清めている間に、部屋は何事もなかったかのようにきれいに片付けられていた。  今遥は改めて用意された氷で隆人にオンザロックを作り、グラスを傾ける隆人に肩を抱かれてベッドにいる。 「まだ若い俺をほったらかしにするからだ」  隆人を見上げその髪を指で梳きながら「何ならもう一発やってもいいぜ」と言ってみた。  隆人が肩にまわしていた手で遥の頭をペちっと叩いた。 「その言葉遣いは本当に何とかしろ」 「そんなこと言われてもなぁ。こんなお上品なところで育ってないし」  室内を手で示す。その手を隆人に握られた。 「どんなに露悪的に振るまっても、顔がきれいなお前ではアンバランスで、見ているこちらが恥ずかしい」 「そんなもんかね。振るまいたいように振るまってるだけなんだけど」 「セックスの時はそれでいい。普段の言葉遣いは頭が痛くなる」  遥は隆人に向き直った。 「よかった?」 「何が?」 「今夜の俺」  隆人が抑えるような笑いをもらして、髪を撫でてきた。 「ああ」 「ならよかった」  満足して枕に頭を落とす。指が髪を梳く。 「お前はどうなんだ?」 「何が?」  意地悪く聞き返すと軽くにらまれた。遥は笑った。 「よかったよ。また、下品て言うだろうけど、自分でオナっとかなくて正解だった」 「言葉がわからん」  隆人の反応にぷっと噴いた。 「自分で慰めとかなくてよかったって言ってるんだよ」 「ああ、マスターベーションか」 「そ」  隆人の表現に軽く頷いたら、手のひらで頭を掴まれた。 「意思の疎通も難しいのでは、やはり言葉は徹底的に改めてもらう」 「則之以降の若者には通じるぞ。俊介には通じないけど」  隆人が呆れた声を出した。 「世話係で何を試しているんだ、お前は」  遥は隆人の手を外し、体を向ける。 「桜木が世話係でよかった。みんな年も違わないし、男ばかりだし」  隆人がグラスを置いた。 「女では嫌か?」  遥は視線を外し、ふっと息を吐いてから答えた。 「わかってるんだけどさ、みんながみんな父さんを捨てたクズとは違うってことは。でも信用できるかって言うと、できない」  乾いた笑いがこぼれた。 「これじゃ俺、結婚できるわけなかったな」  隆人が遥の頭を抱き寄せた。 「自分ではどうにもならないこともある」 「そうだな」 「それがどうにかなってしまうこともあるかも、しれない」 「くどい言い回し」 「未来も可能性も無限なんだ」  隆人が唇に軽いキスを落としてきた。 「俺たちがそうだろう? こうなると思っていたか?」 「確かに」  遥もキスを返した。 「さ、寝るぞ」 「部屋へ行かないのか?」 「ああ、今年は来ているのは俺だけだから。勝手気ままだ」  遥は隆人に家族がいることを思い出した。が、それよりも、本邸にいるこの儀式の間は隆人とずっといられると知った喜びが勝った。  たった二泊三日ではあるが、遥には貴重な時間に今変わった。 「明日は四時起きだぞ」 「は?」  跳ね起きた遥を、隆人がおもしろそうに見ている。 「聞いてないのか? 儀式には禊ぎがつきものだ。特に夏鎮めは朝・昼・晩と三回ある。場所も中奥ではなく最奥で、滝行もするから覚悟しておけ」  遥は叫んだ。 「聞いてない!」  隆人が喉をくっくと鳴らして笑った。 「お前がそんな反応をするから、誰も言わなかったのかもな」  遥は唇をとがらせ、隆人をにらむ。 「さあ、寝るぞ」  手首を捕まれて引き寄せられた。  遥は渋々隆人の胸に納まった。その鼓動を聴くと急に苛立ちが消えた。  隆人の胸に手のひらを当てて、遥は目を閉じた。

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