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第3話

「何か怒ってんの……?」  まだ咳き込みがおさまらず、涙目になってリョウがアヤの表情を伺う。アヤはうっすらと笑みを浮かべただけで、答えは返ってこなかった。 「何か怒ってるんやったら謝るから、おしえ」  また指が突っ込まれた。 「吸って」  怯えの色を滲ませながら、指にじゅうじゅう吸い付くさまは、まるで性器を口淫しているかのようだ。指の向きをくるくると変えてやると、その度にくぐもった吐息が漏れる。もしかして、リョウも妙な気分になってきているのではないか?  ようやく指を口から出すと、リョウはぷはあ、と大きく肩で息をした。だが瞳に怯えの色は残っている。少しやりすぎただろうか。 「リョウ」  優しく呼ぶと、濃い睫毛がみるみる濡れてきた。やっぱりやりすぎた。 「……ごめんね」  アヤがそう言って、最初のように優しく髪を撫でると、リョウの顔はあっという間にくちゃくちゃになった。 「怒って、ない?」 「何も悪いことしてないでしょ」 「じゃあなんで……」 「……ごめん」  意図を察したリョウはびしょ濡れの顔でキレた。 「もう!ごめんで済めへんで!何してんねんな!」 「可愛くて、意地悪したくなった」 「……本気で怖かってんからな……」  今度はふくれっ面になって、また手首にしがみついてきたリョウを、アヤはもう片方の手で優しく包み込んだ。  可愛いな、と素直に思う。

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