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第2話

 捧げられたい、そう少年は思うようになりました。  ですが、少年には身体のちょうど半身に頭の皮膚から、つま先まで炎のような痣がありました。  赤と黒の炎が身体を燃やしているような痣が身体の半身を覆っていたのてす。  左半身だけを。  村人達は彼を呪われた者、としてきました。  彼が生まれた時に、母親が死に、父親も彼がもっと幼い頃に死に、引き取ってくれた親せきの家族も皆死んだからこそ余計にです。  村の片隅で、ちょっとした用事をさせて食べ物を与えること位は許しましたが、ちゃんとした人間として扱う者もいませんでした。  神に捧げるのは美しい者です。   でなければ神の怒りを買うでしょうから。  だから、呪われた彼ではありえませんでした。  でも、彼は寒さやひもじさの中、神のことを考えて自分を慰めました。  淫らに動く金の指や、長く淫らな舌、引き裂く巨大な陰茎などを考えて、中をこすり、胸を弄り、何度も達したのでした。  でも血まみれのベールを愛しげに連れさるその姿を夜の最後に思い出すのです。  死ぬこともなく、雨を降らせ、扉すら通り抜ける神が、呪われた子として、生きている自分と同じように孤独なのではないか、何故かそう少年は思ったのでした。  この村から出たところで、自分が忌むべきものにされることはわかっていました。  人間は自分達とは異なる姿を嫌うから。  神もまた異形でした。  だから彼は神を愛しました。  残酷でおそろしい神に、自分と同じ孤独をみたからです。  捧げられ、神に殺されたい。  それが、ただ孤独に生きるだけの彼のただ一つの望みでした。  少年が18才になった年、また干魃がおこります。  雨が降らなければ、皆死んでしまうでしょう。  そして、村で一番美しい青年がささげられることになります。  しみ一つない美しい肌。  美しい肢体をもつ青年が。  捧げられるに相応しいと。  その年はいつもと違いました。  青年は嫌がり、青年の恋人である男も、生贄を拒否したのです。  「神に頼むなんて、バカバカしい」  男は恋人の前に立ちふさがり叫びました。  「干魃が来るのはわかってた。なぜ備えなかった?俺は溜池を作るべきだと主張したのに!!誰かをころして村を守る仕組みなんて、続けるべきじゃない。誰かのために誰かが死ぬなんて間違っている」  男の言葉にこっそりと木の上からそれを見ていた少年は心を動かされました。  男は取り押さえられ、泣き叫ぶ恋人は連れ去られていきます。  村のために、一人が死ぬだけで済むのは、本当に役立つかどうかもわからない溜池を作るよりも、確かなことだからです。  少年はそれを見つめていました。  互いの名前を呼びながら引き裂かれる恋人達を。  神に犯され恋人は死に、喰われるでしょう。  男は捕らえられ、恋人が勤めを果たすまで閉じ込められるでしょう。  神は血塗られたベールだけを連れ帰るでしょう。    少年は男のことも恋人のことも知ってました。  「呪いなんてない。君の姿は単に君の運が悪かっただけだ。それに、肌に模様を入れる民族もいる。その人達からは君は美しいかもしれない」  外を旅して見て来た男は、少年にそう言ってくれましたし、その美しい恋人は、村の皆に隠れて、彼にお菓子などをそっともたせてくれました。  どこへでも音もなく忍び込める少年は、男と恋人が抱き合うのも見たことがありました。  それは悪いものではありませんでした。  甘い言葉を交わしあい、二人は身体を絡め合っていました。  男が揺さぶるたび、美しい恋人は鳴き、その美しい身体は淫らに揺れました。  薄暗い部屋の中で白い花みたいに、散らされる恋人は甘く美しくみえました。  それも、悪くないと思えました。  求め合うという意味では。  でも、少年はもっと求められたかったのです。  空腹をその身体で満たすように求められたかったのです。  そんな風に求めてくれるのは、神しかしりませんでした。  でも、少年は彼らが嫌いではありませんでした。  人を好きになったことはないので、嫌いではないというのが精一杯でしたが、それは十分、彼が動く理由になりましたし、彼はそれが自分の願いにむすびつくことに気付いたのです。  少年はまず、泣き叫びながら身体を清められ、明日の儀式のために閉じ込められている、美しい青年の元に忍び込みました。  生きるために、少しずつあちこちの家に忍び込んで少しだけのものを盗んできた少年に、この村で入り込めない場所はありません。  青年は驚きましたが、少年が黙るように唇に指を立てると声をだしたりはしませんでした。  大人しく少年が耳元で囁く言葉を聞きます。  でも、優しい青年は首を振ります。  「でも、それじゃ君が・・・」  その言葉に少年は苛立ちを覚えます。  「僕は神に会いたい。むしろあんたに助けて欲しいんだ」  少年の気迫に負けて、青年は少年の申し出を受けざるを得ませんでした。  男の方はもっと簡単でした。  「生贄がすりかわってたら、村が滅びるかな?それって面白くない?」  少年の言葉に共感してくれた人は、生まれて初めてでした。  男も今では村を憎みきっていました。  この男だけでした。  少年の「呪い」も儀式の「生贄」も否定したのは。  「滅びたらいい」  二人の意見は一致しました。  「僕は神に会いたい」  その想いも少しは男は理解してくれました。  男と少年は計画を練ったのでした。

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