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傷ついたキミ。

 薄暗い部屋で暖炉の炎が小さく揺らめいている。 「……っひ」  ヴィンセントは熱にうなされている彼に気が付いた。  苦しいのだろう。  咳は治まったものの、身体はまだ熱を持っている。  あのハーキュリーズ家の愚か者共にはうんざりだ。人を人とも思わない接しよう。しかも屋敷の嫡男であるその子を使用人扱いして自分達は贅沢三昧なんて実に腹立たしい限りだ。いくら彼が少しばかり人と容姿が違うからといってあの接し方は度が過ぎる。  緩く巻いた癖のある赤い髪も可愛いし、売るんだ大きな赤い目は人を惑わす力がある。可愛い限りじゃないか。  ヴィンセントが小さく唸る。  すると彼はこのベッドでさえもほっそりとしたその身体を守るようにして蹲り、身を丸めて縮こまった。  ――ここはカールトン家の屋敷だ。もう怯えるものはない。  それでも彼にこびり付いている深い悲しみと屈辱の日々は心に深く刻まれているに違いない。  丸まった背中を擦ってやれば、ほんの少しだが身体の強ばりが消えた。  ――そのまま力を抜いて、ゆっくり眠るといい。  ヴィンセントは丸まった背中を撫で続ける。  すると、彼の細い腕が伸びてきた。  伸ばされたその手に自分の指を絡めてやると、噛み締めていた唇が解かれる。  ほんの少し笑みが浮かんでいる。  ……なんとも控え目で可愛らしい笑みだろうか。  たまらなくなって彼の旋毛に口づける。  すると今度は胸板に頬を擦り寄せてくるからたまらない。 「まったく、君はぼくをどうしたいんだ……」 (そしてぼくはどうしたいんだ……。)  そっと呟いても夜気に消えるばかりだ。  ヴィンセントは華奢な身体に腕を回し、無防備に擦り寄ってくる彼を見つめた。 《傷ついたキミ。*END》

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