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大切な手紙。

 それはセシルがイブリンと一緒に夕食の準備をしている時だった。 「セシル、何か落ちたわよ?」  セシルの内ポケットから、ひらりと懐から一枚の封筒が落ちた。落ちたそこは小さな水たまりになっていた。 「あっ!」  セシルは短い悲鳴を上げた。急いで封筒を拾い上げる。  封筒はほんの少し濡れた程度だった。小さな水玉模様だけで済んだ。  ……よかった。  セシルは張り詰めていた息をそっと吐き出した。 「母上? 何かありましたか? 悲鳴のような声が聞こえましたが……」  声が突然入口から聞こえた。けれども今、セシルはそれどころではない。一度は離れてしまった封筒をしっかりとその胸に抱きしめる。 「セシル? まだそんなものを持っていたのか」  カールトン卿が蹲っているセシルを覗き込む。  ――違う。『そんなもの』なんかじゃない。継母や義姉にいくらいじめられてもセシルが生きてこられたのはこの手紙があったからこそなのだ。  セシルは小さく頭を振る。  カールトン卿はこの手紙はただの『上っ面ばかりを書き綴った手紙』だと言うが、セシルはそうではない。  「これは僕のすべてなんです! この手紙が――ヴィンセントが僕に生きる勇気を与えてくださいました。だから僕は!!」  言った途端だった。セシルの身体が力強い腕に包み込まれた。 「ヴィン、セント?」  セシルが尋ねれば、 「まったく、君はなぜこうも――」  甘いため息が旋毛に触れる。  ――身体が熱い。  セシルはただただ、カールトン卿から与えられる熱に狼狽えるばかりだった。 《大切な手紙。*END》

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