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よーん
「あぁーーホント二十六になってまで水族館でこんなに…………恥ずかしい。」
繋がれていない右手で顔を覆う。
ぐっと照明の光量が落ちたエリアに入り、漸く俺の興奮が落ち着いてきたと同時に、さっきまでの自分を埋めてやりたくなる。
俺もういい大人よ?頼むよホント。
「樹さんがあんなにキラキラしてるの初めて見ました。」
「やめて!記憶から消しといて!!」
「えーずっと覚えておきます!」
「晴臣君!?」
両脇の水槽を眺めながらぽつりぽつりと会話していると、俺の大好きな大好きなハコフグちゃんが見えた。
途端に折角落ち着いたテンションが渋谷の若者並みにブチ上がってくる。
っふぁーーー!可愛い!!可愛いよハコフグちゃん!!!
手のひらに収まるそのサイズ。
紙風船のようなそのフォルム。
最高だよチョー可愛いよ!!!
でも同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
努めて平静を装いさり気なくハコフグを観察していると、抑えきれないとばかりに晴臣君が笑いだした。
「えっ、なに!?」
「すいませッ!樹さんが我慢してるの可愛くてつい!」
え、バレてる?
ハコフグが頑張って小っちゃいヒレ動かしてるの見て、発狂しそうなぐらい脳内で騒いでるのバレてる??
焦りながら問うと、軽く息を整えた晴臣君が頷いた後コツコツと水槽を叩いた。
「俺と喋ってるのに目が水槽に釘付けだもん。」
「ご、ごめ、でもちゃんと話は聞いてたから!」
「ははっそんなに必死にならなくても大丈夫ですよ。」
余程分かりやすく見ていたのだろう。
決して生返事をした覚えは無いが、恋人である前に人として良い態度ではない。
まして、今日は誰よりも晴臣君に相応しい恋人でなくてはいけないのに。
「ごめん、今からちゃんとデート頑張るから。」
申し訳なくて晴臣君の顔が見れない。
デートだっつってんのに完全に俺の独り善がりの時間だった。
これじゃあ頼ってもらった意味が無い。
自分が不甲斐なくて情けなくて猛省していると、晴臣君に俯いていた顔を上げられる。
思っていた以上に晴臣君の顔が近くにあって息を呑んだ。
「謝んないで。」
ふわりと微笑んだ彼はとびきり優しい声で言う。
「樹さんの笑顔が見れて俺は嬉しいですから。」
「……………ありがと。」
その言葉が耳から脳に回ってくると、ギュッと喉が締まった気がして、蚊の鳴くような声しか出なかった。
気恥ずかしい空気に耐えかねて、止まっていた歩みを再開させる。
繋いだ二人の手の温度が急上昇したことには気づかないふりをして。
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