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ろーく

「本当に樹さんのおかげです、ありがとうございます!」 「いやいや、役に立てて良かったよー。」 あの日、無事に篠原さんを信じ込ませることに成功した俺達は堅い握手を交わし、一週間後にお疲れ様会を開くことにした。 ということで現在、晴臣君の部屋にお邪魔しております!! 「にしてもイケメンで料理も上手って、神は平等の精神を忘れたのか!?」 がっつりご飯から酒のつまみまで、机の上のものは全て晴臣君の手作り。 誰にもやらんと食べ進めていく俺を晴臣君は幸せそうに見つめている。 美味い飯。 整ったお顔。 これは酒も進むというものですよ!!! 「ちょっと飲みすぎですよー。」 「んん~、まだ飲む!」 飲み始めてから一時間が過ぎた頃、今日も今日とて黒い会社に勤めてきた疲労からか、やけに酒が回るのが早い俺は既に舟を漕ぎ始めていた。 ぽわぽわした脳内に先日のデートのことが思い浮かび、酒で溶けていた理性が口を滑らせる。 「晴臣君、好き。」 「!?」 「俺のペースに合わせてくれたから好きーまた行こ!」 「………あーうん。はい。また行きましょうね。」 一つの展示に人の何倍も時間をかけて観察する俺は、誰かと行くと大抵嫌がられるから基本的に一人でしか行かないのだが、晴臣君は一度たりとも急かさなかった。 俺と同じくらい生き物が好きなのかと思ったけれど、彼の視線は水槽に向いていなかったようにも思う………なんでだろう? 「えぇー、言わなきゃダメですか。」 「うんダメ。聞きたい!」 酔っ払いの気まぐれセンサーが働き好奇心100%で晴臣君を覗き込む。 酒のせいかほんのり頬が色づいた晴臣君がバッと顔を逸らし、至近距離でその顔禁止と言うけれど、そんな事よりも気になることがある。 俺は更に晴臣君に詰め寄った。 「…………………樹さん見てた。」 かすれた声でそう言った晴臣君は、追加のつまみを作ると急いで席を立つ。 それを見送った俺は、俺じゃなくて魚見なきゃダメじゃない?と何とも的外れなことを考えていた。 その後、飲みに飲んで幼児化した俺は一人は寂しいと駄々をこね、晴臣君の部屋に泊まらせてもらうことになった。 「え、なんで一緒で良くない?」 「良くないんです!」 「俺気にしないよ?」 「俺が気にするんです!」 客用の布団が無いと言われたので、晴臣君のベッドで一緒に寝ようとしたら涙目で嫌がられた。 そこそこ大きいベッドだから男二人でも大丈夫だと思うんだけどな、という俺の意見は却下され、俺がベッド、晴臣君はソファに就寝した。

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