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なーな
自慢ではないが俺はどんなに飲んでも記憶が飛ばない。
ゲロゲロ吐いて気絶するように眠ろうが、ウコンあいらーびゅーな二日酔いになろうが、一から十まできっちり覚えている。
だから晴臣君との宅飲みだってばっちりだ!
俺が能天気に料理を褒める度に幸せそうに微笑んでいること。
気分のいい俺がにぱっと笑いかける度に耳が染まったこと。
パーソナルスペースガン無視で近づく度に晴臣君の瞳の中に欲がチラついていたこと。
なーにが俺じゃなくて魚を見ろだよ、アホか阿呆なのか!
一緒に寝よ?じゃねーよ、軽率にベッドに誘うでない馬鹿者!!
そうつまり酒が抜けて気が付いた。
…晴臣君俺のこと好きになっちゃったんじゃね?
何を言う自意識過剰野郎めがとお思いの方、いや実際自分でも半信半疑どころか二信八疑ぐらいなので許して!
あれからご飯のおいしさに負けてちょくちょく隣の部屋にお邪魔になり、酒を飲めば即落ち二コマで馬鹿になる俺は毎度そのことを忘れて色々やらかす。
そして翌日酒が抜けきって記憶を振り返って頭を抱える、というのを繰り返していくうちにどんどん疑惑が濃くなっていく。
だったら宅飲みヤメロやとお怒りの方、家事力ゼロ男の一人暮らし舐めんなや!!
逆ギレしたくなる程度には温かいご飯に飢えているんです!!
残業を片づけていたら店は閉っちゃうから外食は出来ないし、ぼっちでデリバリーもなんか空しいし……。
徒歩五秒で美味しいご飯が食べられるんだもん、誘われれば行っちゃうよな?な!!
だから俺は今日も晴臣君の部屋に行く!
スマホが通知で光るのを見て、ラストスパートとばかりにタイピング速度を上げた。
「ここで降ります。」
チキショー糞上司お前のせいで終電逃したじゃねーか!!
大慌てでタクシーを捕まえ事の次第を晴臣君に連絡すると、夜遅くなっても構わないと返信があったからよかったものの、これで晴臣君のご飯を食べ損ねていたら抹殺しに行くところだ。
エレベーターに乗り込みながら今日のメニューを想像する。
時間帯のことを考えると消化にいいモノが良いが、罪悪感増し増しのがっつりご飯も溜まらない。
明日は久々にお互い何の予定も無い休みだし、美味しいつまみとともにゆったり酒を楽しむのもアリだ。
呼び鈴を押しいよいよだと浮足立つ俺を嘲笑うかのように、扉から現れたのは見知らぬ女性だった。
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