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第4話

「おまえは『運命』に夢を見すぎだよ」  いつだったか忘れたが、やはり呆れた顔でそう口にしたのは、これまた十年以上の付き合いになるαの友人、――自分の部下が一目も二目も置いて怖れている元生徒会長である。 「『運命』だかなんだか知らないが、少なくとも俺はどんなに仲の良い番同士が一緒に居ても、そいつらから光り輝く純白のオーラが放たれるのなんて一度として見たことないね」 「今度、叔父たちを紹介しましょうか?」 「結構。聞いただけで胸やけがする。そんなバカっぷるに率先して会いたいとは思わない」  一刀両断されて鼻白む。  『運命の番』をバカップル扱いとは…これだから情緒を解さない奴は――…、……いや、この男の番はこれまた輪をかけて情緒とは縁遠そうな男だった。似たもの夫婦なのだ。さぞ家庭内はぎすぎすしているに違いない。そう考えれば同情の余地もある。  ちなみに、今でも叔父たちは周りが羨むほどに仲睦まじく、幸せそうな夫婦生活を営んでいる。やはりあそこは理想の関係だ。憧れる。 「――『運命の番』うんぬんはともかく、あまりΩを信用するな」  そう忠告してきたのも、この友人だった。  会長はΩが嫌いだ。  もちろんそれは周到に隠され、Ωを毛嫌いする様子をみだりに周りへ見せるような愚行を犯したりはしないが、……それなりに長い付き合いになれば察せられる程度にはΩを忌避している。Ωに対する露骨な嫌悪は、差別としてとられかねない。Ωへの人種差別発言は、いまや大きく取りざたされ、問題視される時代となっていた。  Ωがαの性奴隷のように扱われていた時代もあった頃を思えば、ずいぶん人の考え方も変わったものである。  それでも、やはり変わらない……変えられないものもあった。  ――αの本能はΩを求め、またΩの本能もαを求める。  これだけは、魂に刻み込まれ、未来永劫変わらない不変であるように思えた。  そして、自分は『運命の番』もそのようなものだと思い込んでいたのだ。  そんな凝り固まった価値観…固定観念を突き崩してきたのは、秘書の存在であり、また友人の言だった。

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