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「望んだものはただ、ひとつ」2-1
パラッと紙をめくる乾いた音だけが室内に流れる。常ならばソファーにゆったりと座り、紅茶を飲みながら読書をするシェリダンであるが、今回は食事をすることもあるテーブルにかじりつくようにして眉間に皺を寄せながら書物と睨めっこをしていた。テーブルにはたくさんの書物が山積みにされ、何冊かは広げられたまま置かれている。
「…………ふぅ」
難解な書物にため息を零して、シェリダンは一度文字の羅列から顔をあげて深いため息をついた。
「妃殿下、少し休憩なさってはいかがでしょう?」
「そうですよ妃殿下。お好きな紅茶と菓子をご用意いたしますから」
あまりにシェリダンが集中していたため声をかけるに掛けられず見守るしかなかったエレーヌとミーシャが口々に休憩を勧める。確かに気を張り詰めていても効率が悪いか、と促されるまま立ち上がった時、シェリダンの全身に血が流れたかのようなしびれが走った。
「んぅ……」
随分と同じ姿勢でいたらしいと、身体を伸ばしながらソファーに向かう。伸びをして視界さえも鮮明になったような気がした。
「さぁ妃殿下、どうぞお飲みください」
シェリダンの好きな甘いミルクティーをエレーヌが差し出し、ミーシャがタルトタタンを綺麗に切り分けてシェリダンの前に置いた。
「ありがとうございます」
口に含む温かなミルクティーが殊更甘く感じる。ホッと息をついたシェリダンにエレーヌは笑みを零した。
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