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知らない事実
翌朝。あんなに意味深な感じで去って行ったくせに。亜貴は何事もなかったかのように迎えにきた。
「おはよう」
「……はよ」
いつも通りの道。いつも通りの会話。いつも通りの亜貴の笑顔。俺にはなにがなんだかさっぱり分からなかった。
「なあ、亜貴」
「ん?」
「昨日のことやけど……」
「ああ、ごめん。あれな。何でもないねん。どうしてもあのDVDが見たかったからちょお拗ねてもうただけやねん」
嘘つけ。
ホラーが死ぬほど嫌いなこいつがどうしても見たいわけがない。しかも、『見る気なくなった』って自分で言うてたし。やけど。めちゃめちゃ苦しい言い訳までして、この件のことを無かったことにしたいのだったら。亜貴がそうしたいのなら。
自分はそれに乗るまでだ。
「そうか」
「おん」
「そしたら今日見る?」
「え? 今日はええの?」
「ええよ。今日はなんもないし。お前が持ってきたお菓子そのままあるし」
ほんまぁ?楽しみやなぁ。そう言って亜貴が子供のように笑った。この笑顔が見られるなら。結局、昨晩最後まで見てしまった映画をもう一度見るくらいなんてことはない。それに、俺が誘えば、亜貴がこうやってすぐに機嫌が直るのも長い付き合いだから知っている。
なのに。
亜貴があんなにうまく行っていた彼女と別れていたことは、この日、学校で哲夫から聞かされるまでは知らなかったし、気づきもしなかった。
亜貴のことだったら。自分が1番に知る権利があるのだと、どこかで思っていた。亜貴が1番に自分に話してくれるものだと当たり前のように思っていた。そして、亜貴の変化を自分が見逃すわけわないと自信も持っていた。
でもそれは間違いだった。そしてその事実は。思いのほか、俺に大きなダメージを食らわした。
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