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決断 ③
「失礼しました」
放課後、進路指導室から出てそのまま帰宅しようと玄関で靴を履き替えていると。
「洋介」
昇降口の階段に座り込んだ亜貴が声をかけてきた。
「あれ。どうしたん?」
「待っててん」
「いつ終わるか分からへんから先帰れ言うたやん」
「おん、でもなんとなく。一緒に帰りたかったし」
「……そうか」
亜貴と並んで校門を出た。通い慣れた通学路をだらだらと歩く。
「進路指導、どうやった? 何の話?」
「ああ……」
そこで、どう亜貴に説明しようか迷った。
実を言えば、俺が県外の大学を受けることは亜貴には打ち明けてなかった。亜貴は俺が地元の大学へ進学すると今も思っている。
ぎりぎりまで言わないでおこうと決めていた。言えば、亜貴に必ず問い質されるし、反対するのも分かっていたから。亜貴に嫌だと言われたら、俺の決心が鈍るかもしれない。そう思ったのだ。
哲夫にも、亜貴には言いにくいから、と自分が直接言うまでは黙っておいてくれるよう頼んだ。周りにも家族以外、黙っておいた。
俺が急に進路を変えた理由は、1つしかない。
『ヨウちゃん』
子供のように笑ってそう呟いた、保健室のベッドの上の亜貴の顔が浮かぶ。
あの日。なんとかトイレで気持ちを落ち着けてから保健室へ戻ると、亜貴がすでに起きていて着替え終えていた。保健医の先生も戻っていたので挨拶をしてから一緒に帰宅した。
いつも通り振る舞ったつもりでいたが、亜貴が隣にいるのを意識すると、再び自分の気持ちが落ち着かなくなるのを感じた。
そう。あの日から。俺の気持ちはざわざわと音を立てていた。限界を超えてしまって、また亜貴に何かしてしまうのではないかと気が気ではなかった。
俺は怖かった。このままずっと亜貴の傍にいたら。どうなるか分からない。亜貴を傷つけるかもしれない。そんな亜貴を見るのも、自分を見るのも嫌だった。
だから。物理的な距離ができればこの衝動を抑えられるのではないかと思った。亜貴は地元の専門学校への進学を変えることはないだろう。ならば、自分が変えるしかない。
「……大したことちゃうかった。センター試験の願書に間違いあったらしいわ」
「そうなん? 気をつけんとあかんで。それで試験受けられへんかったら大事やで」
「そうやな」
いつまで隠し通せるか分からないが。今はこのまま何事もなく過ぎてほしい。そんな気持ちだった。
しかし、1ヶ月ほど経ったある日。そんな俺の願いもむなしく、あっさりと亜貴に知られてしまうとは全く予想していなかった。
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