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喧嘩 ①

 それは、12月という年末特有の慌ただしい空気が流れる中、センター試験に向けて珍しく机に向かって勉強に集中していた夜だった。  ピンポーン、と誰かが玄関のチャイムを押す音が聞こえたな、と思ったら、下で親と会話を交わす亜貴の声がした。そのままドタドタと階段を上がってくる足音に、なになに??と思っていると。  バタンっ、と乱暴にドアが開かれた。すごい形相で亜貴が立っている。 「怖っ……」  思わず呟く。 「……どういうことやねん」 「は? どうしたん?」 「どういうことや聞いてんねん」 「だから、何が?」 「大学やんか!! お前、県外の大学希望しとるってほんまなんか??」 「…………」  ついにバレた。そう思った。 「なんで知ってんねん」 「はあ?? おかんから聞いたに決まってるやろっ!」  そこで、しまった。と俺のアホさ加減を恨んだ。親に口止めしておくのを忘れたのだ。その経由で情報がいくのは容易に想像できたのに。 「ほんまなんか??」 「……おん」 「…………」  亜貴がショックを隠せない顔で黙った。数秒の沈黙。亜貴がゆっくりと口を開いた。 「なんで……?」 「……急に県外もええかなと思うただけやねんけど」 「……そうやなくて」 「え?」 「なんで言うてくれへんかったん?」 「…………」 「なんで最初に俺に言うてくれへんかったん?」 「…………」  本当のことなど、もちろん言えなかった。  この、目の前の幼馴染みが。どうしようもなく好きで。やけどどうしようもなくて。どうにもならないから逃げたくなったなんて。言えるわけがない。

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