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似たもの同士
「私な、亜貴くんに興味があってん」
「……は?」
「1年生の時からずっと。1年の時は亜貴くんと同じクラスやったからよう亜貴くんのこと見てたわ。私とは全く逆の性格で明るくて素直で。困った人がおったら無条件に手を貸して。植物とか動物とか好きで。善意の塊みたいな亜貴くんが、とっても興味深かってん」
「それって……」
「好きとかではないよ。もっと、なんて言うか、人としての興味って言うか……。どうしたらあんないつも善人でいられるんやろうって」
「…………」
「そうやって亜貴くんを見ている内に、津田くんも目に入るようになってん」
「……なにそれ。俺、そしたらついでの人やったん?」
「まあ、最初はね。やけど、あることに気づいて、そうしたら津田くんって一体どんな人なんやろうって思うて」
それで津田くんにも興味が沸いて、付き合ってみたい思うてん。そう言って由美が少し笑った。
「はあ……」
「付き合ってから、分かったこともあった。津田くんって、人に興味なさそうでいつも冷めた感じでおるけど、こだわりは強いし、決めたこととかそうだと思ったことには真っ直ぐな熱いところもあるんやなって」
「……それって褒められてるん?」
「そうやで。ええことやん。真っ直ぐになれることってなかなかないやん」
「そうか?」
「そうやって」
そこで、さっき由美が言った言葉が気になって聞いてみる。
「なあ。さっき、『あることに気づいて』って言うてたけど、あることってなに?」
「それは言われへん」
「……なんで?」
「私の言えるところやないし」
「そうなん?」
「まあ、それは亜貴くんを見てて思うたことやから。亜貴くんも自覚してることやと思うし。本人に聞いたらええんちゃう?」
「……今、絶賛絶交中」
「ああ、そうやったね。分かりやすいくらいに離れてるもんね」
「まあ……」
由美が少し何か考えるような仕草をしてから再び口を開いた。
「私、津田くんのこと、好きやったよ。人として」
「…………」
「最初は興味だけやったけど。少なくとも情はできたわ」
「情……」
「ふふっ。そう、情。なんか、分かってん。なんで……」
そこで、由美が言葉を止めて、軽く笑って話を誤魔化した。
「まあ、そこはええわ。やけど、津田くんも私のこと好きちゃうかったやろ?」
「……それは……」
「別にええよ。分かってたしな」
「……ごめん」
「やから、謝らんでもええねんって。お互い様やねんから」
「……好きではなかったかもしれへんけど。由美とおったとき、居心地はよかったで」
そう言うと、由美が少し驚いたような顔をした。そして、その顔が時間をかけて笑顔に変わっていった。自然な、優しい笑顔だった。
「似たもの同士やからね」
「……そうやな」
「なあ」
「ん?」
「余計なお世話かもしれへんけど。って言うか、こんなん私のキャラやないねんけど、言うわ」
「なに?」
「素直になった方がええと思う」
「……どういう意味?」
「そのままやん。今、津田くん嘘いっぱいついてるやろ」
「…………」
「大事な人にいっぱい嘘ついて、傷つけてるやろ」
由美は気づいているのだろうか。俺の、亜貴への気持ちを。
「ちゃんと謝って、自分の気持ちに素直に従った方がええよ。やないと後悔するで」
「やけど……」
「やいやい言わんと。最後ぐらい、自分で勝手に決めへんと元カノの助言に耳傾けても損はないと思うで」
「はあ……」
「大丈夫やから」
「……その自信はどっからくんねん」
「やって」
自信たっぷりな整った笑顔を向けて由美が続けた。
似たもの同士やから。
「…………」
わけ分からんわ。そう答えながらも、俺は心の中で由美に感謝していた。
恋愛感情は持てなかったけれど。由美は自分のことを理解してくれる『同士』だったなと思う。そういう意味では過去付き合ってきた彼女たちとは明らかに別格で、特別だった。亜貴とは逆で、由美が男だったら、きっと俺たちはずっと付き合っていけたかもしれない。
「なあ」
「ん?」
「ありがとう」
「…………」
由美は何も言わなかった。でもそこには俺たちにしか分からない心地よい空気があって。その空気に包まれながら、ゆっくりと2人では最後になるであろう帰り道を一緒に歩いた。
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