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紫の章7
促されて中に入ってきたのは先程ずっと紫龍草を与えてくれていたシィンだ。
キョロキョロとまわりを見渡して居心地悪そうにしていたが、葵をみると「あ!青龍様!」と嬉しそうに声を上げた。
「シィン、こちらにおいで。お前はこれから日中は青龍様のお世話をさせていただきなさい。
知っての通り、青龍様のお世話は星見の一族の役割ですが、私は星見の仕事などで忙しく、ずっとはお世話させていただけません。
お前には、ひと通りのことは教えましたから、当面のお世話は問題ないはずです。青龍様のお世話は、この国にとって非常に大事な仕事です。しっかり頼みましたよ」
シィンは神妙な面持ちでグアンの話を聞いていたが、やがて覚悟を決めたように「はい!」と返事をした。
「日中は好きにこの部屋を出入りしていい。侍従にも伝えておく。必要な物があれば何でも言え。なに、ペットの世話と一緒だ。別に難しいことなどない。
俺はまだ政務があるから、これで失礼する。グアン、茶でも飲んでその眉間のシワをとっていけ」
まだ、何か言いたそうなグアンを尻目に、フェイロンは部屋を出て行った。
フェイロンがいなくなった途端、部屋中に充満していた心地よい香りが薄れていく。
なんとなく心細いような気がして、葵は紫の絨毯に深く体をうずめた。
「やれやれ、陛下には困ったものですね。青龍様を軽じられてるようですし、登極から一か月しか経ってないので政務でお忙しい。陛下が青龍様との時間を取れない分、お前がしっかり青龍様のお世話をして差し上げるんですよ」
「はい!」
シィンは頑張ります!と、張り切って部屋を出て行く。葵の寝床を用意してくるらしい。
「さて……」
残されたグアンはお茶を飲むでもなく、紫の絨毯に跪き葵に向かって叩頭してきた。
「青龍様、言葉はお分かりになりますよね?」
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