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紫の章9

「王気についての詳しい事は分かりませんが、天下を納めるに相応しいお方という事でありましょうか。  フェイロン王は青龍様が好む紫龍草と同じ紫の瞳と髪を持ち、幼い頃から大変利発で、龍王になられる事を期待されておいででした。陛下はやはり龍王であったのだと、朝議の際にまわりが歓声をあげておりましたが、実はまだ陛下は龍王にはなっておりません」 「……?」 「王と青龍が契約を結ばなければ、龍王になったとは言えません。青龍様と陛下は、まだ知り合いになったとしか言えない状況でございます。王と青龍の契約と申しますのは……?」 「アオ…?」 「時が来れば分かる…と『青龍天綱』には書いてございます」  何故そこで急に曖昧になる、『青龍天綱』……。 「恐らくですが、青龍様が成獣にならないと契約は出来ないのではないかと思われます。契約には膨大な法力が必要なはずですから。 成獣になれば天地を揺るがす法力が使えるようになる筈です。その時、自ずと契約の方法も分かるのではないでしょうか。成獣となった青龍様は、この世の全てを見通せる、とも言い伝えられておりますし……」  とうとう言い伝えになってしまった。  段々グアンが言っていることが曖昧になっていく。 青龍の降臨(した覚えはないが)自体久しぶり過ぎて、色々な記録が薄れているのかもしれない。  そもそも法力とはなんだろう。今の葵に出来るのはせいぜい、わりと高いジャンプが出来るくらいの事しか分からない。  自分の紅い爪をじっと見ても、自分の中にそんな力があるとはとても思えなかった。  成獣になれば、そんなに強い力が得られるのだろうか?  そこまで考え、葵は一つの可能性に気付いた。   (それならば、もしかしたら、元の世界に戻れるような力も得られるのだろうか?)   「それで、青龍様が成獣になられる方法なのですが、青龍様ご自身はお分かりになるのですか?」  勿論知るわけがない。  葵はバシンバシンと二回尾を叩く。 「左様でございますか…。実は、そもそも我々の知識では、青龍様が成獣で現れないと言う事は想定してございませんでした。 たしかに、青龍様が降臨されたらすぐに皇帝の元にお連れしろ、と『青龍天綱』には書いてありましたが、まさかお小さい姿だとは思っておりませんでしたので、おそらく陛下を青龍様の元にお連れしろと言う事なのだと勝手に解釈しておりました。 久しぶりのご降臨のうえに『青龍天綱』も曖昧な事が多くございます。大変恐縮なのですが、成獣になる方法を青龍様も一緒に考えて頂ければと…」 「……」  葵は暫くグアンの事を胡乱な目つきで見つめていたが、とりあえず、従うほか手は無さそうだな、と思い、バシンとまた尾を振った。 「ありがとうございます!あぁ、呆れていらっしゃる事は百も承知でございます。ただ、なんせしつこい様ですが、青龍様は此方では殆ど伝説の生き物とされています。 伝承自体もかなり曖昧となっておりまして…あぁ!なかなか降臨されなかったことを、別に責めているわけではございません!勿論!!」 「アオ…(しつこい)」  グアンは嘘がつけないタチらしい。感動屋で興奮しやすいようなので、さもありなん、である。 「それで、ですね青龍様。これは私からの提案なのですが、皇帝陛下と仲良くなってみてはいかがでしょう?皇帝と青龍の契約は、二人が一心同体という絆の証とも言われます。陛下は残念ながら、あのような調子ですしーー。 ここはひとつ、青龍様から陛下にこう、擦り寄ったり、先程のようにペロペロしたり……、お腹を、こう……見せてみたりですね」 「……」 先程フェイロンに青龍をペット扱いするなとか、何とか言っていたのは、グアンでは無かったか? バンバン!! 葵は床にヒビが入る勢いで、尾を床に二回叩きつけてやった。

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