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紫の章12

「お前は爬虫類マニアだからな」  食後のお茶を飲みながら、フェイロンがホンに向けて呆れながら言った。 葵はフェイロンの足元に蹲って会話に耳を傾けている。  フェイロンの膝の上は魅力的だが、絶対に嫌味を言われるのが分かっているので出会いの時以来一度も乗っていない。  だが、フェイロンの香りを感じたくて思わず寄り添ってしまうのだ。 「爬虫類マニアじゃないですよ!俺は全動物を愛してますからね!勿論人間も入れてね♡」  と、ホンは何故か葵にウィンクをしてみせる。  急な来訪の理由は、ただ単にホンが『青龍にもう一回会ってみたい』とごねたらしい。  そこで急遽、政務の間の昼食休憩をフェイロンの私室でとることになった様だ。  シィン情報によれば、フェイロンとグアンとホンは幼馴染みで、ホンはなんとか将軍のなかなか偉い人という事だ。  皇帝と臣下にしては大分気安そうな関係なので、フェイロンもホンには気を許しているのだろう。 「その動物愛人間込みのせいで、御令嬢が何人もグアンに泣きついてくると愚痴っていたぞ。次から次へとお前は節操がなさ過ぎる」  グビリとお茶を飲むフェイロンの喉元と、茶杯をなぞる長い指先に見惚れて、葵は目が離せない。  王様なだけあって、何をやっても絵になるのだこの男は。 「やだな〜、陛下に言われたくないですよ。陛下こそ男の子だったら誰でもいいって感じだった時あるじゃないですか。まぁ、今は青龍様がいるから男の子も連れ込めないか」 (……!?) 気のせいか……。いま確かに男の子といったようなーー。 葵は心底ビックリして、フェイロンを凝視した。 「女は孕むからな。面倒だ。あまりにも大臣が世継ぎ世継ぎと煩いので、男しか興味がないとアピールしただけだ」 「あはは〜でも、そんな事したから、私室に帰ったら、大臣が用意した綺麗どころの姉と弟が一緒にベットの上で裸で待ってたりしたんですよ」 「あの時はそのままお前を呼び出して、二人とも託しただろうが」 「あはは〜、まぁ、俺も恩恵に預かりましたけどね。あの時は楽しかったな〜。弟が(うぶ)な顔して意外に凄くて…男なら一度はやってみたいですよね姉弟どんぶり♡」 「……」 ……信じられない。色々な意味で信じられないーー。  葵は発情期を迎えていないうえに、そのような話をする友人もいなかったので所謂下ネタと言うものを話した事がない。  こんな開けっ広げに最低な話をするものなのだろうか?これが男同士の会話という事か?  とりあえず葵の中でホンの好感度は地に落ちた。 それにーー (フェイロンも……色んな男の子と……) ジトッとフェイロンを見つめると、視線にホンの方が気がついた。 「あはは〜、青龍様が凄い冷たい目で見てますよ〜。陛下もよくあーゆー目しますよね〜。主従でやっぱり似るのかなぁ〜、それにしても、まるで何だかこっちの会話が完璧に分かってるみたいだな〜」  まずい。あまりにも見過ぎただろうか。  葵は慌てて顔を伏せて居眠りしているフリをする。 「おい、もういいだろうホン。爬虫類との触れ合いもそれまでにして、そろそろ仕事にもどるぞ」 「はーい、じゃあね〜また来るね〜青龍様」  ホンはそのまま背中を押される様にヒラヒラと葵に手を振って部屋を出て行った。  フェイロンも一旦外に出たが、すぐ戻ってきて扉から顔覗かせたかと思うと 「おい、別にお前にどう思われようがどうでもいいが、さっきのはホンが大袈裟に言っただけだからな」 とだけ言ってバタンと扉を閉めて行ってしまった。 (大袈裟に言っただけ……って事は多少は心当たりあるって事じゃないか!?)  葵は自分でもどうしてこんなに怒ってるのか分からず、行き場のない感情を持て余し、尾を二回床に叩きつけた。

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