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黒の章5

 フェイロンの手の平は驚くほど熱かった。 (フェイロン……どんな夢を見ているんだ?)  フェイロンを苦しめる夢の中の葵は、どんな酷いことをフェイロンにしているのだろう?手の平の熱から、フェイロンの苦しみが伝わってくるようだった。   (俺は、フェイロンを傷つけたくない……フェイロンを守りたいのに……)  すると、突然顔面を叩きつけるような突風が吹いた。  石粒のような雨も降ってくる。  丈夫な鱗はびくともしないが、それでもたまらず目をつむった。 風の勢いが少し収まり、目を開けるとそこには紫龍草の花畑が広がっていた。 (ここは、紫龍園?)  激しい雨風で花々は首が折れそうな程曲がっている。  そこに、そこだけ時間が止まったように静かに佇む二人の人影が見える。  一人は金髪の長い髪に、薄紅色の羽衣のような美しい服を着ている。後ろ姿で顔はよく見えないが、恐らく隣の子供の母親なのだろう。  もう一人は紫色の髪に、紫の瞳の幼子だ。8歳かそこらに見える。母と手を繋いでしきりに何か話しかけている。  すると、突如雷鳴が轟き、黒い雨雲の中から大きな鋭い三本の爪が現れる。 (あれって……青龍の爪?)  爪の先端が下を指したかと思うと、そこから稲光が真っ直ぐに親子にのびる。  子供の絶叫が鳴り響くなか、母親が雷撃を受けて、ドサリと花畑に倒れ込んだ。 (嘘だろ?) 「実際は母は雷に打たれてはいない。あれは俺の夢だ」 急いで駆け寄ろうとした葵だったが、すぐ後ろから聞き慣れた声がして振り返る。 「死体は紫龍園で見つかったが、実際は気が狂って死んだだけだ。青龍の天罰を恐れてな」  紫の髪は雨に濡れ鈍い黒色となり、服も全身ぐっしょりと濡れ重そうだ。随分前から雨に打たれていたのが分かる。  ただ紫色の瞳は静かにこちらを見ていた。 「フェイロン……」

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