ロンワン王国の朝議は兔の刻からはじまる。 謁見の間に各々整列した役人や大臣が拝礼を行う中、いつも通りフェイロンは中央の玉座に悠々と座った。 「へ、陛下……？」 「なんだ？」 「どうしました……その？」 「ん？何かおかしいか？」 「いや、おかしいといいますか……」 　もごもごと言いづらそうに口ごもる宰相の代わりに、ホンが空気を読まずにズバリと言った。 「なんで青龍様、陛下に膝抱っこされてんですか？」 　役人達が一斉に、コイツよく言えるな！？と驚愕する中、フェイロンは涼しい顔で答える。 「アオは、この国の守護龍だ。別に何もおかしい事はないだろう？」 「や、それはまぁ、いーんですけど。なんで、膝抱っこ？赤ちゃんっぽくないですか？せめて、俺のヤンみたいに肩に乗せるとか〜」 またしてもホン以外の役人達全員が、コイツ本当に恐ろしい奴だな…と驚愕し続ける中、フェイロンは少し怒ったように答えた。 「肩なんかに乗せて、アオが滑ったら危ないだろうが」 「……！？」 　今度こそ、謁見の間にいる王以外の全ての人間が驚愕した。 　ホンが隣にいるグアンにコソコソと話かける。 「陛下どうしちゃったんだ？前まで青龍様にはめっちゃ塩対応だったじゃん」 「え、ええ……熱を出されてから、どうも心境の変化があったらしく。今朝もどうしても朝議に連れて行くと、半ば無理やり青龍様を抱っこして連れてきてしまいまして……」 二人がコソコソと話している最中も、フェイロンは顔色ひとつ変えずに優雅に手をあげて言い放った。 「皆のもの、いつも通りに朝議を始めてくれ。アオの事は気にするな、アオがどうも俺がいないと寂しいと泣くもんでな、仕方なく連れてきたのだ」 　とんでもない嘘を堂々とつく王に、ホンとグアンはお互い顔を見合わせる。 「青龍様が言葉が分からないと思って言いたい放題だな〜陛下」 　コソコソと話しかけてくるホンの言葉に、グアンの顔色はどんどん青くなる。実際は青龍が言葉を理解している事は王も知っているはずなのだが……。 　チラリと青龍に目を向けると、どうも遠くを見つめている目が死んでいるように思える。 　(へ、陛下〜〜！仲良くしてくれとはいいましたがやり過ぎですよっ) 　とグアンがヒヤヒヤする中、朝議は、じっと大人しく膝抱っこされている青龍以外は通常通り進行していった。