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黒の章9 王様の独り言①
「俺の膝にいるのは疲れたか、アオ?」
膝の上でこくりこくりと船を漕ぐアオに声を掛ける。アオはハッとなって、尻尾を2回振ったがどう見ても目蓋が落ちてきている。
(可愛い)
政務中のフェイロンの膝の上ではどうしても気が張るらしい。ゆっくり居眠りもさせてやれそうにない。
よく考えたら朝から紫龍草もろくに食べさせずに付き合わせてしまった。
「疲れただろう。気付かなくてすまない。俺の私室にいつも通り紫龍草をシィンが用意しているはずだから、少し食べてゆっくりしておいで」
アオは一瞬尻尾を振りかけたが、やはり疲れていたのだろう。恐縮しながら、膝の上を降りて扉へ向かった。
途中振り返るとフェイロンに向かって、ゆっくり三度瞬きをする。
フェイロンが微笑みながから頷きかえすと今度こそ、そそくさと扉を出て行った。
青いはずの鱗がうっすらピンクがかって見えたのは気のせいか……
(可愛い過ぎるな)
初めてアオがグアンに抱かれて謁見の間に現れた時から、こんなに美しい生き物がこの世にいるのかと感動したのを覚えている。
アオの周りだけ光が差し込んだかのように輝きを増し、特に宝石の様に美しく、青空の様に澄んだその瞳を見た時、全く信じていなかった青龍への見解が180度ひっくり返った。
その美しさと神々しさは、紛う事なき青龍であり、そして、神の使いとして自分を死に至らしめる為にやって来た事は疑いようがなかった。
(この龍と、契約出来る者が龍王なのか……そして、それは俺ではない)
今まで悪びれず座っていた玉座が、正当な王から簒奪したものだという現実が重くのしかかる。
本物の龍王がこの美しい生き物と描くロンワン王国の未来は、さぞかし素晴らしいものになるだろう。
初めて自分の罪を実感し、フェイロンは断罪を受ける日を覚悟した。
しかし、いくら待っても青龍はフェイロンの側に寄り添い、澄んだ瞳で優しく見つめてくるだけだ。
それが逆に生への執着や新たな王への嫉妬という醜い感情まで全て見透かしされているかのようで、フェイロンはもがき苦しんだ。
フェイロンは少しでも罪悪感を減らしたくて、青龍の瞳から逃れたくて、政務に逃げるように打ち込んだ。
その結果、倒れてしまったわけだが……
(あの時のアオは、青龍というよりも一人の人間として、俺を救ってくれたような感覚だった)
涼やかな声で、お前を許すと言ってくれたアオに、青龍ではなくアオという存在がフェイロンを認めてくれた事を強く感じた。
そのアオが、何故かフェイロンを自分の王だと言ってくれる。
自分の罪は消えないが、アオがそう言ってくれる内は、自分の居場所はここにあるのだと思えた。
「青龍様と仲睦まじい事で大変結構です。これで更に、仲睦まじい女性が現れてお世継ぎ様に恵まれれば、この国は安泰間違いなしですな」
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