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第34話

今朝は何だか少し暑いな、と思って葵は目を覚ました。  この世界の季節はよく分からないが、鱗で覆われているせいか、こちらに来てからは暑くもなく寒くもなく快適に過ごしている。  他の人たちを見ると別に薄着をしているわけでもないので、夏というわけではないようだ。  今日だけ特別暑いのかもしれない。あちらの世界では6月だったので、もし暦が同じように動くならそろそろこちらも暑くなる頃だろう。 フェイロンはというと、とっくに起きて朝議に出る為に支度をしている所だった。  今日も豊かな長身に紫色の長衣をピシリと着こなし文句なく決まっている。  葵が起きたのに気付くと、こちらに向かって優しく微笑んでくれた。 (あれ?) 「陛下、少し顔が赤くありませんか? 大事をとって本日は休まれては?」  朝の挨拶に来ていたグアンが、葵の代わりにフェイロンに忠告した。  そうなのだ。今日のフェイロンはいつもより頬が少し赤みを帯び、瞳も少し潤んでいる。 「そうか?今朝は何だか喉が渇いて目が覚めた。いつもより暑いせいだろう。大事ない」 「そうですか?確かにそろそろの『火』の季節ですが、今日はそれ程暑いわけでも……何かあったらすぐおっしゃってくださいよ。この間のように突然倒れられるのだけはおやめくださいね」 「分かっている」  フェイロンは煩そうに返事しながら、首元を少し寛げる。首筋にスゥと一筋の汗が喉仏をつたって流れる、熱いため息がこちらまで聞こえてきそうだ。具合が悪いというよりも、何だかいつもより色っぽく見えてしまう。 (あ、あれ?なんか、俺まで更に暑くなってきた??) 「アオ、今日はどうする?」  フェイロンは朝議に行く時、葵にどうしたいか尋ねるようになった。無理やり連れて行って疲れさせてしまったと反省したようだ。  葵としては誘ってくれたのは嬉しいし、仕事中のフェイロンはとてもカッコ良いので毎日でも行きたいのだが、毎日行くと、どうもフェイロンの仕事の邪魔をしているような気がして、行ったり行かなかったりだ。  ただ今日はフェイロンだけで行かせるのが心配でいてもたってもいられなかった。 (……こんな色っぽい姿をが皆んなの前で見せるなんて!) 「アオ!」  勢いよく返事をすると、葵はフェイロンの腕の中にフワリと飛んで収まった。 「フッ」  いつものように腕の中の葵を抱っこしながら、フェイロンが思わずと言ったように笑った。 「アオ?」  どうしたのかと思って首をかしげると、フェイロンは笑いながら答えた。 「すまん、いつも気持ちいいと思っていたんだが、今日は特にアオの冷んやりした鱗が心地よく感じるなと思ってな。  普通誰かを抱きしめても何だか温くて気持ち悪いと感じた事しかないんだが、やはりお前は特別だなぁと思ったんだ」    誰かを抱きしめたら、というのは誰だろうか?前ホンが言っていた少年達の事だろうか……。 突然強烈な嫉妬と暗い優越感か渦巻いて眩暈がするような心地だ。 (俺はただのペットなのに、こんな事で優越感を感じても何にもならないのに……) 「ん、どうした?」 まただ。その顔でその台詞。 これ以上好きにならせないで欲しい。 こちらはフェイロンの一つの言動でこんなにグルグルしているのに。  とっくに手遅れなのを感じながら葵は抗議のつもりでフェイロンの腕を甘噛みした。 「っ…!!」 途端、フェイロンが呻いた。 「アオ!?」 「陛下!?」   そんなに強く噛んでしまっただろうか? グアンも心配そうにこちらを伺っている。 「いや、すまん、何でもない。 何故か急に燃えるように熱い感覚があってな。そんな顔をするな、アオ。もう大丈夫だ。」 「やはり具合が悪いのでは?」 「いや、問題ない。あまり騒ぐな。アオが心配してしまうだろう。遅刻する。行くぞ」 フェイロンは、そう言うとわざとグアンを置いてさっさと朝議に向かってしまう。 (なんだろう…何だか胸騒ぎがする)  

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