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黒の章13
朝議は順調に終わり、フェイロンも頬が紅く染まっている以外はいつも通りだった。
宰相の締めの言葉でフェイロンはゆっくりと謁見の間を退室する。
そして、そのままゆっくりと音もなく廊下へ倒れ込んだ。
「アオ!?」
「陛下ーー!?」
慌ててフェイロンのおでこを傷つけないように舌で舐めてみると燃えるように熱い。なぜすぐ気づかなかったのだろう。その場は騒然とし、フェイロンはすぐさま自室に運びこまれた。
フェイロンの意識は辛うじてあるものの、とにかく熱が高いようで呼吸も浅く苦しそうに呻いている。
何の病気か分かるまではと、医師に全員部屋から追い出された。
倒れたのが朝議の直後だった為、宰相、大臣、それにグアンが政務室でフェイロンの容態を聞くために待機する事になった。葵も居ても立っても居られずグアンの足元をウロウロとして、焦燥に駆られる事しか出来なかった。
「先日陛下は倒られたばかりで、また……陛下はどこかお悪いのでしょうか?」
グアンが心配そうに呟く。重苦しい空気の中、農耕大臣のユンソンが沈黙を破った。
「早々に、皇太子を立てねばいけぬかもしれんな……」
「なんと早計な!!ユンソン様口が過ぎますぞ!」
「私は、状況を正確に把握して、やるべきことを口にしたに過ぎません。皇太子をたてるのはどちらにしても悪い事ではない」
「それにしても、今それを言う時では……っ!!」
まあまあ、と宰相のチェンがその場を収める。
「どちらにせよ、陛下の詳しい容態が分からねば動きようがありません。我々に今できる事は、目の前の茶杯を飲み干す事では?」
「なんと呑気な!」
ユンソンが気色ばんだ所で、医師が部屋に入ってきた。
「容態はどうだったんです!?」
グアンが激しく詰め寄ると、医師は躊躇いながらも側まで来ると、何とも煮えきらない返事をした。
「え、えぇ、これがまた何とも珍しいというか……何といいますか……」
「ええい、早く言わぬかっ」
ユンソンが先程の悋気のままに医師にどなりつけると、医師はヒィッと縮こまりながらボソボソと答えた。
「へ、陛下は恐らく王露病 にかかっておいでです……」
「王露病?初めて聞くぞ」
「は、はい。王族の方が罹患する事が多いのですが、まれに身分の高い方でしたらかかる事があると言われています。非常に珍しい病気ですが、王気が優れている方ほどかかり易いとも……。
このまま熱を放っておけば、2、3日で衰弱して死に至る事もあると言われています。」
「……っ死!?」
グアンがぐらりと倒れそうになったところを、チェンが支える。
「この王露病は特徴がありまして、その、私も初めて見たのですが、まず高熱が出まして、そして、男根が異常に勃起致します」
「ん、何だって?」
「はぁ、ですから、男根が異常に勃起します。」
(ん、……それって?)
葵は何だか嫌な予感がしながら、医師の話を盗み聞く。
「どういう事なんだ?」
「はぁ、私も病因までは分からないのですが、熱で勃起する事は、ままあるのですが……。王露病に罹りますと、異常な程勃起して、通常ではあり得ない形になるとあります。
僭越ながらこの目で先程確認しました所、ただでさえ立派な陛下の男根が、ちょっとあり得ない形に勃起しておりました。間違いございません。」
一同、どのような反応をしていいか困り、沈黙が続いた。グアンも先程は心配顔だったが、今は赤くなったり青くなったりして泡をふきそうだ。
またしても沈黙を破ったのは、ユンソンその人だった。
ゴホンと咳払いして、いかにも真面目くさって医師に質問する。
「して、治るのか?その『おうろびょう』というのは?」
「はい、一応手立てはございます。基本的には、熱を発散させれば良いわけです。暫くはこの状態が続きますが、寝所に何人か呼ばれて発散されれば、上手くいけば回復されるそうです。まれに治らない場合も有るには有るようなのですが……」
「ふーむ……」
ユンソンが自慢の髭を撫でながら、思わせぶりに医師に確認する。
「陛下は、熱が引かぬまでは、朦朧としたままなのだな?では、寝所で陛下をお鎮めする者はどんな者でも構わないという事だな?」
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