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青の章14
鯨になったらますます役立たずになるじゃねぇか、とブツブツ言いながら気にする様子をみると別段仲が悪いわけでもないらしい。
(ここが王宮なら青龍が子供を産みたいって言っていた相手は、この時代の王様なのかな。じゃあ、青龍と王様の生まれ変わりの子供が王家の子孫なのか?)
ふと、そう葵が思った瞬間たちまち目の前に竜巻が巻き起こり、あっという間に引きずり込まれた。
慣れとは恐ろしく葵は洗濯物ってこういう気分なのかな、など考えているうちにビー玉が転がるように風の渦から吐き出される。
今度は上手く受け身をとってすぐに周りを見渡すと、周りには紫龍草が広がっていた。過去だとしても、かなり今に近い時代に違いない。
見ると長い髪をひとつに結った青い髪の少年が、紫龍草の花畑に仰向けになって寝そべっている。目を閉じているので瞳の色は見えないが、ひと目見て彼が青龍であろうことが分かった。先程より人間味を感じるのは薄らと紅をさした頬の色と、あどけなさを残した顔立ちのせいだろうか。
「青龍様~!」
そこに正殿の方角から赤い髪の同じ年の頃の少年がやってきた。結わいた髪を柴犬の尻尾のように振るわせ息を弾ませて走ってくる様は、小動物のような可愛らしさがある。
「また紫龍園にいらっしゃってたんですか?」
「ーーその名で呼ぶのはやめておくれ千太郎。他の者はまだしも、お前に言われると気恥ずかしい」
青龍は目を閉じたままその声に応える。どうやら元々眠ってはいなかったらしい。
「だってぇ、蒼次様って呼ぶと星見のおじさんが凄い睨んできて怖いんですよ~。あの人、俺も霊獣だって分かってんのかなあ~」
首をかしげながら不満そうに言う赤毛の少年に、青龍は控えめに笑いながら、目を開けてゆっくりと起き上がる。
「今度朱雀の本当の姿を見せてみてはどうだ。小鳥の姿にばかりなるから、そのような態度をとられるのではないか?」
「小鳥の姿の方が蒼次様と一緒にいられるんですもん」とそれこそ小鳥のように口を尖らせる赤毛の少年は朱雀のようだ。
(別の名前で呼び合っているという事は、この二人は俺の世界で生まれたのかな)
二人の口振りからすると元の世界でも親しかったようだ。青龍の方が主人か何かだったのだろう。
「しかし、紫龍草を食べるわけでもないのにここに来るのはお辛くはないのですが?」
「逆だよ、千太郎。食べられないのでここに来ておるのだ。我が君の王気が強かったせいか、腹におる稚児 の陽の力が強まり過ぎている。これ以上力が強まると稚児の体が耐えられようもない。紫龍草を食べるわけにはいかぬので、せめても香りを感じていたのだ 」
(ややこって事は、この人お腹に赤ちゃんがいるのか!?)
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