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青の章16
「玄武っ……!」
「俺のところには全然来ないくせに、その鳥とは仲良くやってんのかよっ!」
怒りのオーラというものがあるなら、今の玄武はまさしくそれを纏っていた。
蛇のままなので表情はよく分からないが、縦長の瞳孔がギョロリと蒼次を睨め付ける。
「玄武、蒼次様はなっ……! 」
「千太郎 」
蒼次が視線で千太郎を咎めた。ぐっと千太郎が言葉を飲み込むのを見て、玄武はまた気に入らなそうに苛々と体をゆする。
「俺の知らない名前で呼び合って!随分と仲がいいんだな。俺だけ仲間外れかよっ 」
「玄武、そんなことはない。俺はいつもお前を心配しているよ」
「嘘だ!!全然森に会いに来てくれないじゃないかっ。俺はずっと待ってるのに!! お前はいつもそうだ。子供が産まれるとなるといつも会いに来なくなる!!」
表情は変わらないが、泣いているように見える。葵は何だか玄武が可哀想に見えてきた。真っ直ぐな愛を蒼龍にひたすらに向けている。母を求める子供のようだ。
(なんとなく祖父と一緒にいた時の俺みたいだなーー)
葵はフェイロンに会えたから、変わる事が出来た。
今なら祖父の事も冷静に考える事が出来る。
だが、玄武は盲目的に蒼龍を求めているのだ。その愛は裏切られた時どれ程の怒りに変わってしまうのだろう。
癇癪を起こしてる玄武が、祖父の遺書を見て自棄を起こした時の自分と重なる。
(あぁ、フェイロンに会いたいなーー)
千太郎が呆れた声で口を挟んだ。
「蒼次さまも、身重でそうそう森まで飛ぶことは出来ない。お前だって分かるだろう?会いたいならお前がここに脱皮の抜け殻を使って移動すればよかろう。おまえなら抜け殻を使えば一瞬で移動できるんだ」
「……俺がここに来ると、災いがお前に降りかかると人間たちが騒ぐ……」
「いけない、玄武。そんな事を言っては。言霊になってしまう。お前は霊獣だ。そんなわけないだろう」
蒼次が玄武に優しく言い聞かせるが、玄武は暗い目をして蒼次をじっと睨んでいる。
「そうだ。言霊だ。俺は人間達に災いを起こし過ぎた。人間達は俺に悪い言霊ばかり与える。俺は最早災いの源なのかもしれない。青龍、だから、俺は試してみようと思う」
「ーー玄武?」
そうだ、この時玄武は確かーー。
「青龍、お前の子供はーー」
突如、ドンッと鼓膜が破れそうな衝撃音で目が覚めた。
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