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青の章22

 クロは小さくとぐろを巻いたまま、じっと固まって動かない。 「蛇の丸焼きは、さぞかし美味しいんだろうな」  千尋は大きく嘴を開いた。  嘴の中から火の粉が飛んでいるのが見える。朱雀は別名炎帝とも言われ、火と夏を司る霊獣なのだ。 「ちょっ! やめろよ!!本当お前は嫌な奴だな。分かったから嘴を閉じろ」  しぶしぶと言った様子でクロは葵の方に顔を向け人の姿に変化した。心なしか以前より痩せたように見える。クロも法力を使い過ぎたのかもしれない。 「クロ、なんでホンを操ったりしたんだ?」  葵は静かにクロに問いかける。クロはふてくされたように答えた。 「操ってなんかない! 俺は、あいつの欲望をちょっと後押ししただけだ。あいつには元々そういう欲望があった」 「クロ、人はね。誰しも身勝手な欲望を身に宿し、それを理性で抑えて過ごしているんだ 」  葵はそっとクロの手をとった。 クロは迷子のような瞳で葵を見つめている。過去を覗き見た葵は、もうクロだけを責める事は出来なかった。 「それを叶えてしまうことが、必ずしも幸せな事ではない。人は理性と欲望の天秤をいつも抱えて生きているんだ。お前がしたことは、ホンを操った事に他ならないよ。彼が抑えていた欲望を勝手に暴いて操ったんだ。それはね、クロ。許されることではない 」 「玄武~、いくらアオちゃんと一緒にいたいからって、今回はちょっとやりすぎだったんじゃないの?」 千尋は葵がホンに襲われかけた事は知らないのだ。知っていたら恐らくもっと火を噴くようにーー実際火を噴いて怒り狂っただろう。 「違うっ!別に一緒にいたいからとかじゃっ!」 「じゃあ、なんでだよ? 」 「・・・・・・」  千尋に責められ、クロはそれっきりうつむいて何も言わなくなってしまった。  葵は目線で千尋を制止すると、クロにそっと話しかけた。 「クロさ、もしかして俺の前世の事気にしてる?」 「ーーっ!! 思い出してしまったのか!? 」  クロが弾かれたように顔を上げた。 「じゃあ、あの言葉もーー」  クロが蒼白な顔で呟いた。わなわなと震えた手が氷のように冷たい。 「う~ん、多分アレだよね。俺の子供は生まれてこないって言ったやつだよね 」 「あ、ああ、あああ・・・・・・ 」  クロは葵の手を弱々しく握ったまま、崩れるように蹲み込んだ。  葵が見た蒼次の記憶。あれは、今の葵の前世の記憶だった。  最後までは見れなかったが、葵はその後の事も思い出していた。   あの直後、玄武は「子供は生まれてこない、これは呪いの言葉だ」と言ってそのまま何処かに消えてしまったのだ。  青龍は玄武を追いかけようとしたが、直後に産気づき、そのまま親子ともども命を落とした。  その後葵に生まれ変わって今に至る。 「俺……そんなつもり無かったんだ!まさか、本当に……それにあんたまでっ!! 」 クロは震えながら慟哭した。 「またあんたに会うのが怖くて怖くてーー。いつもだったらすぐにあんたが生まれ変われるように手助けするんだけど……それも怖くて出来なくて……。でも、あんたは自分の力で天野家に生まれ変わって、ちゃんと、こっちに来てーー、どうしよう、どうしようって、で、でも、あんたまだ、前世のき、記憶を思い出して、なかった、みたいだから、だからーー 」

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