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アクシデント 2
ゆっくり足を進めると、コンクリートの上の小さな砂利を踏むような感覚が、革靴越しに感じた。
おそらく細かいゴミが散らばっているのだろう。広さは、およそ小学校の体育館くらいはありそうだった。
隅にダンボール箱が無造作に積み上げられ、体育の授業や体育祭で使用した物があふれていた。壊れた跳び箱や破れたマット、高く積み上げられた折り畳み椅子などだ。
不意に、ガタッと物音が倉庫内に反響して、僕の身体はビクッと硬直した。
途端に、進みたくても足がすくんで動けなくなった。心臓が耳の中でどきどき脈打って、周囲の音を遮断していく。
僕、資料取りに来ただけなのに、なんでこんなとこに来ちゃったんだろう……。後悔しても遅いけど、タバコ臭はどんどん強くなっている。
でも、やっぱりやめればよかった。僕は教師だけど重度の怖がりで弱虫だし、ついでに握力も超弱いのに。
緊張はピークに達していた。今度は入り口付近で音がして、僕は再びビクッと全身をそちらにむけた。
チューチューと小動物の鳴き声が耳に飛び込んでくる。
「ひゃっ!」
ネズミだ! こんな暗くてジメジメした場所にいるネズミなんて、でかくて狂暴かもしれない。ハムスターみたいに可愛くないやつだ! きっとそうだ!
と、そこで激しく動揺した僕は足元に転がっていた物につまづいた。
僕の身体はあっけなくゆらりと傾いた。
両手が空をつかみ、背中から倒れていく。
「わあっ!」
「うわっ」
そこからはスローモーションだった。
ゆっくり、薄暗い壁が足元に下がって、高くまっ黒な天井が正面に移動した。
腰でも打ったら、動けなくなったら、誰が助けてくれるんだよ! 頭の中でぐるぐる考えながらぎゅっと目を瞑る。
ドタッと鈍い音のあと、冷たい床とは別の感触が僕の背中に当たった。
ヤバい、背中打った! 起きられなかったらどうしよう、スマホ置いてきちゃったのに……。ああ……誰か助けて……。
あれ??
…………痛くない。……なんで?
視界の端に、床に落ちたタバコの火が赤く光った。
一回転してひっくり返ったのに、痛くないのはおかしい。僕は鈍いから、遅れて痛みがくるんだろうか。それも怖いけど。
でも待てよ……。僕が叫んだとき、聞こえたような。
僕以外の声が……すぐ、――僕の下で。
僕は瞬時に、今の状況を理解した。
「おい……いつまで乗ってる」
身体のすぐ下から、地の底を這うような男の声がした。
ひっと声を飲み込み、でも、動きたくても、腕や脚に力が入らなかった。
「早く、どいてくれ」
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
僕はなんとか身体を横に倒し、もそもそと芋虫のように這って、クッションになってくれた男から離れた。
「あのっ、ありがとうございました! 僕があなたの上に倒れたから……ほんとにごめんなさい! 怪我とかしてないですか?」
「いや、平気だ」
薄い闇の中で男は身体を起こし、乱れた髪をかき上げるとタバコを手に取った。顔は見えないけど生徒っぽい。
こんなとき、私服だと生徒なのかどうか把握できないから困る。
「あなたのおかげでケガせずに済みました。あの、この学園の生徒さんですよね。……僕は国語の松澤だけど」
「松澤……」
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