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アクシデント 4

 左肩とひじと腰に激痛が走った。打ち付けた場所がジンジン痛む。    起き上がろうにも、目の前に五藤が立ちはだかっているし、体制を変えるスペースもない。  僕の頭はがんがんと混乱して、どうすればいいのかさっぱりわからなかった。  ああ……僕はこの薄暗い倉庫で、僕のことを嫌う彼に、ボロぞうきんのようにズタボロにされてしまうのかもしれない。  彼が、本当の僕を知らないことが、少しだけ虚しかった。  いや、それを知っていたとしても、どっちみち嫌われていたかもしれないけど。広がる痛みが、ますます気持ちをダウンさせていった。 「痛い……」  五藤は僕の脇に座り込んだようだった。少し興奮した呼吸がすぐ近くで繰り返される。胸元はすうすうするし、コンクリートの床の冷気が、カーディガン越しに身体に移動して僕の体温を奪う。左肩と腕は冷えと痛みで痺れ始めた。    すぐ戻るつもりでいたから、上着は職員室に置いてきたのだ。 「あの、五藤く――」  懇願するつもりで顔を上げると、僕の服は再び引っ張られた。 「やめっ……」  五藤の手により、僕のワイシャツはスラックスの外へだらしなく流れてしまった。   次にベルトに手をかけられ、抵抗するが思うように力が出ない。 「あっ!」  足元からスラックスをするっと引き抜かれ、太ももとふくらはぎが直に床にあたる。僕は、だらりと横たわるしかなかった。冷たい。痛い。 「いい眺めだなあ、松澤先生。こんな姿、生徒に見せらんねえもんな」 五藤は声を殺して笑っている。   こんなことをされても、彼が苦手でも、僕は生徒を嫌いになれない。今までだってそうだった。どんなにやんちゃな生徒でも、可愛いのだ。  五藤のことも、恐ろしくて怖いけど、きっと嫌いになれない。  トトトッと聞きなれた音がして、フラッシュがたかれた。 「ちょっ……写真撮ったの?」 「記念になるだろ。みんな喜ぶぜ、俺みたいな先生のファン、結構多いし」  誰かに送信するつもりなのか、スマホをスクロールしている。 「やめろよ、悪趣味だ!」 「うるせえ」  ちっと舌打ちが聞こえる。スマホを足元に置くと、五藤は僕の下着のウエスト部分に手をかけた。まさか、これまで脱がすつもりなの? 嘘でしょ?  グイと引っ張られたとき、僕は力を振りしぼり暴れて抵抗した。 「や、やだっ!」  仰向けにされ、馬乗りに組み敷かれ、両手足の自由を拘束される。だめだ、それだけは。下着を奪われ写真まで撮られたら、もうここにいられなくなる。それに、こんな理由で辞めるのはとにかく嫌だ。 「やだあ! やめろよっ、やめろおおおおおお――――――!!」  嗚咽まじりの僕の叫び声は、意外な効果をもたらしたようだった。 「ばかぁ――――っばかばか! 五藤くんのばかあ―――――っ!!」  五藤が、僕を押さえつけていた両手を引っ込めた。 「は……?」 「なんでそんな酷いことすんだよ! ばかあ!!」  僕の勢いに圧倒されたのか、五藤はゆっくりひざ立ちして後ずさり、僕から距離をとった。

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