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アクシデント 5

 僕は拘束が解かれても、無様に倒れたまま必死に嗚咽をこらえようと頑張ったけど無理だった。 「こんなことして、何が楽しいの? まるっきりいじめじゃん! 僕ばっかり責めないでよ! 五藤くんだってさ、いっつもいっつも、僕のこと睨むくせに! すっごく怖いんだからね! E組行くの怖くてほんとに嫌なんだから! 家に帰りたくなるんだから! ああもう、ぶち壊しだ! もうだめだ! おしまいだ! ばかばかばかっ、五藤くんのばかぁ――! うわああ――ん」  僕は一気に感情を吐き出しおんおん泣いた。ついでに大量の涙と鼻水も噴射しながら。 「お、おい……」  五藤くんの戸惑った声が聞こえたが、僕は構わず一番苦手だった五藤くんの前でわんわん泣き叫んだ。  もう自分を止められなかった。ずっと無理してせき止めていたダムは、決壊したのだ。  倉庫の薄明かりの中、僕が散々泣いて、嗚咽のヒググッヒググッが、ヒックヒックに落ち着いてきたとき。  五藤くんは僕の足に、スラックスをそっとかけた。 「ひっぐ……ぅぐ……なんで……うっ……ふぅっ……やめて、くれた、の……?」  僕は泣きはらした目で彼を見上げた。涙で濡れた頬が冷たい。鼻水でベトベトの鼻の下が気持ち悪いし口に入ってしょっぱい。  五藤くんは、ひどく困ったような顔で僕を見下ろした。 「いや、泣き方が……俺の弟に似てた、から」 「ぉ……おとうと?」    なんだか意外な気がして「小さい弟いるんだ……」と僕が呟くと、すっと五藤くんの顔が近くなった。しゃがんだらしい。 「……悪かった」  ややふてくされた感じの謝罪の言葉に、一瞬聞き間違いかと思った。あまりに驚いて、苦しかった嗚咽がぴたりと止まったほどだ。  とにかく身体を起こそうと身をよじると、左腕に力が入らなくてもたついた。目の前に差し出された五藤くんの手を、僕はためらいながらも借りることにした。 「立てるか」 「ありがと……」  やっとのことで起き上がり、自分の身なりを改めて見てみると、ひどかった。  ワイシャツの前ははだけてボタンは半分ないし、カーディガンはビロビロにのびている。下は……。黒のボクサーパンツ姿だった。――暗くて良かった。  床の埃で白くなったスラックスのポケットを探り、ハンカチを取り出して鼻水を拭き取った。  チーンと勢いよくかんでやる。もうヤケクソ。 「あのさ、悪いと思ってんならさっきの写真、消去してよね」  心持ち強気に出てみる。大泣きしてしまったことが恥ずかしくて、今さらだが、下半身を隠そうとカーディガンを引っ張った。 「もちろん、消すよ。……別に、誰かに送信しようとか、思っていたわけじゃない」  五藤くんは僕のスラックスを拾い上げ、さっと埃を落とすと、律儀にスマホの『消去しました』の画面を見せて寄越した。僕は一先《ひとま》ず安心して、なんとか身なりを整えた。 「まだ、授業残ってるんだろ」 「うん……今日は六時限目のG組が最後」  こんな泣き腫らした顔で教壇に立つの恥ずかしいけど、どうせみんな僕の顔なんかろくに見てないから大丈夫かな。  

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