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アクシデント 7

 ひそかに感動しながら、僕は彼を遠慮なく見つめた。 「なんだよ、言ってよう」 「そのうちな」  見上げるような長身のわりに、顔は意外に小さい。いつも怖い顔しか知らなかったけれど、こうして見ると、それほどきつい感じはしなかった。男っぽさの中に、繊細なラインが見え隠れする。  女の子が放っとかない顔だなと思った。……女の子には、優しく接するのだろうか。 「ねえ、身長いくつ?」 「百八十五。そっちは」 「僕にそれ聞くの……ひゃくろくじゅう……ご」 「いや五はないだろジャストだろ」 「そんなことないもん! 百六十五あるもん!」 「そうかそうか」 「くうう……」  こうして話していると、どっちが生徒かわからなくなってくる。僕の腕に黙々と包帯を巻く五藤くんは、楽しそうにも見えたし。  ベッドに横になり、掛け布団から目だけ出すと、僕を見下ろす彼と目が合った。丁寧に治療をしてもらったときに感じた親密な空気は、元に戻っていたけれど、やっぱりもう怖くないと思った。 「ぎりぎりまで、休んでろよ。――あ、寝過ごすなよ」 「大丈夫、アラームかけるから……」  サイドテーブルにのろのろ手を伸ばし、スマホを開く。  思うように指先が動いてくれなくて格闘していたら、五藤くんの手ががひょいと僕のスマホを取り上げ、手早くアラームをセットしてくれた。 「ありがと」 「ああ……じゃあな」  心配そうな視線を残して、五藤くんは静かに保健室を出て行った。僕はしばらくの間、彼が消えたドアを見つめていた。 嘘みたい……五藤くん、本当はすごく優しい子だった。   寝るように言われたから眠りたかったけど、ちっとも寝つかれなかった。興奮というか、なんというか……。  あの五藤くんが、目が合うたび回れ右して帰りたくなるよう目つきで、僕を睨んでいた五藤くんが、丁寧に傷の手当をしてくれた。まだ信じられなくて、夢を見てるみたいで。    乱暴されて怖くて泣き叫んだことが吹っ飛んでしまった。  彼の心配そうな表情が頭から離れなくて、僕はとても眠れそうになかった。    次の授業前に職員室へ戻ったとき、佐尾先生に裁縫道具を借りた。  彼女は最初、僕のボタンの取れたワイシャツを見て驚いていたけど、僕が平常心を装っているのに気付いてくれたのか、なにも聞いてこなかった。  後日、佐尾先生には事情を話したいけど……でも、すごく驚くだろうな。五藤くんのためには、話さないほうがいいんだろうか。  身体を動かした拍子に肩と腕が痛み、暗い倉庫での出来事を思い出す。  あのぞっとするほどの五藤くんの冷たい目つき。  優しく治療してもらった後だけに、あそこまで憎まれていたのかと思うと、気持ちが沈んだ。もとはといえば僕が、絵に描いたような厳格な教師を演じていたからだけど。  以前聞いた話では、これまで五藤くんは特に大きな問題は起こしていない。たまにサボりや居眠りはあっても、成績はクラスで常に上位を維持している。  国語の成績だけが悪くて、僕にだけ態度が最悪だったのだ。  根は優しい性格なのに、なぜなんだろう。いつか、その理由を教えてもらえたらいいのに。そう思った。

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