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彼の優しさ 2
♢
昼休み、僕は鞄から弁当と水筒の入った保冷バッグを取り出した。
職員室の出口へ向かうところで、ちょうど入ってきた佐尾先生とばったり出くわす。
「あら、つっくん今日は中で食べないの?」
中というのは、職員室と中続きになっている、職員用の休憩スペースのことだ。
「うん、天気がいいから外にいこうかと思って」
「外?」
「じゃ、じゃあね」
何か言われる前に、僕は急いで職員室を後にした。
屋上へ上がると、予想通り五藤くんは給水塔の上で昼寝をしていた。
誰もいない場所でこんな風に彼の姿を見つけると、あの日、倉庫でばったり出くわしたことを思い出す。
けど、決してマイナスなイメージではない。普段は騒がしい取り巻きが脇をかためていても、彼は僕と同じように一人で過ごすのが好きらしいということが、なんだか嬉しかったのだ。
邪魔になるかなと思いながらも、五藤くんにすっかり懐いてしまった僕は(教師である僕が生徒に懐くという表現は変だけど)大きめの保冷バッグを抱えて、喜々として給水等に登った。
「よいしょ」
「は? なんだよ」
僕は迷わず、五藤くんの隣に座った。
「……嘘だろ。おまえ、本当に来たのか」
ダルそうに身体を起こした五藤くんに、呆れた声で言われてしまう。でも、もう怖くないもんね!
「へえ、天気がいいと、あったかくて気持ちいいんだねーこの場所」
僕は保冷バッグから弁当の包みと、温かいほうじ茶入りの水筒を取り出し、いそいそと広げた。
「おい……なに勝手に広げてるんだ、俺に断りもなく」
「いや~、今日作りすぎちゃってさ。昼飯まだなら、食べるの手伝ってよ。あ、この卵焼き自信作だからおすすめだよ」
実際は、五藤くんのために早起きして作った。僕にしては、かなり大胆なことだけど、思いついたら行動に移していたのだ。
相変わらず呆れた様子で僕を見ていた五藤くんは、弁当を覗き込むと、素直に驚いてくれた。
卵焼き、アスパラガスの豚肉巻き、ブロッコリーのたらこ和え、赤と黄色のプチトマトに、おまけはタコ形ウインナー。
見事なまでに彩りはばっちりだ。そして大きめのおにぎりが五個。
これがおにぎりではなく、平らに盛ったご飯の上にハート形のピンクのふりかけだったら、完璧な彼女の手作り弁当に見えるかも。
「すげえ……おまえ、毎日こんな弁当なのか。つーか、まじで全部手づくりかよ」
「へへっ、まあね~」
いやいや、いつもはもっと質素だよ。おにぎりだけの日もあるしね。さっきの不機嫌な顔はすでに消え、食べる気満々の彼に箸を手渡した。
「どうぞ」
五藤くんは行儀よく、両手を合わせた。
「じゃあ遠慮なく、いただきます」
あ、また新発見。五藤くんは毎回、こんな風に意外な一面を見せてくれるから、僕はつい調子に乗ってしまうのだ。
あの倉庫での一件依頼、五藤くんは生徒の中で唯一僕の素顔を知る人間になった。何より百八十度印象の変わった、彼の持つ独特の雰囲気が心地よいからだけれど。
ラインで繫がった翌日から、僕は素直に彼に頼っていた。
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