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彼の優しさ 5

 晴れた日は特に、空を眺めながらぼんやりするのが好きらしくて、僕はまたそんなところに、ひどく感動してしまうのだった。 「僕もたまにパズ〇ラやるくらいだもんなー」 「ん?」 「なんでもなーい」 「変なヤツ」  給水等の柱に寄りかかり、足を投げ出して座っている五藤くんの姿に、ふと視線が吸い寄せられた。  ビンテージ風のブラックデニムに包まれた足は驚くほど長い。ゴツめのブーツは先の尖ったタイプで、スラリとした足先が格好良い。  視線を上にずらすと、リブ編みのシックなブラウンのセーターに、シルバー色のネックレスが光っていた。    下半身は細身なのに上半身の胸板は厚い。少しめくり上げたセーターの袖口から、しっかり筋肉のついた腕が覗いている。   こうして改めて観察すると、長身で全身のバランスも良くて、五藤くんが相当かっこいいということがわかる。  髪の色は手を入れてなさそうだが、あごのラインまでのびた真っすぐで野生的なヘアスタイルは、精悍な顔立ちをさらに男らしく見せていた。 「僕の姉ちゃんたちも、五藤くんみたいな弟なら、大歓迎だろうな。大事にしてもらえるよきっと。僕なんか実家にいるころは二人に毎日こき使われて、シンデレラみたいだったもんね。弁当とか三人分作ってたし。まあ、作るのは好きだからいいけど」  五藤くんは、形のいい口元をふっとゆるめた。目を細めてこっちをむく。 「なんかそれ、リアルに想像できるな。姉さんたち、おまえと似てるのか」 「うん。美人三姉妹って近所の評判だった」  もちろん僕は、冗談のつもりで言ったのだが、彼は真顔で頷いた。 「だろうな」  五藤くんはたまに冗談も言うけれど、大抵は正直に本音を言う。この数日で僕は、誠実な彼の性格を知ることになったからだ。 「や、やだなあもう、冗談だってばー」  だからこそ、僕にむけた敵意の真相が知りたかった。ときどきあの瞬間の彼の鋭い視線を思い出しては、胸が痛くなってしまうから。  五藤くんは、赤くなった僕の顔をじっと見た。 「おまえ、他のやつらの前でもこんな感じにしていればいいんじゃないか。きっと女子にモテモテだぞ」 「えっ、そんなこと」  長い指が近づき、すっと僕の顔に影をつくった。ひょいと眼鏡が外される。 「あ、眼鏡!」 「まじでもったいないと思うけど」  本心から思っているのか、五藤くんは真面目な顔つきで告げてきた。僕は気持ちがずんっと沈んでいくのを感じた。  理由は多分二つある。    一つ目は、前の学校での出来事を思い出したこと。  二つ目は、軽く突き放された気がしたからだ。  僕はいつのまにか、五藤くんの前でありのままでいられることを、心地よく感じていた。そりゃ、職員室ではリラックスしているし、佐尾先生にも甘えたりするけど。  それでも彼と一緒にいると、すごく楽しくて時間を忘れてしまうのだ。    それに彼は、僕がなぜ自分とは正反対の厳格な教師を演じるという不自然なことをしているのか、興味がないだけだとしても、聞いてこない。  それが、ありがたいと思った。

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