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彼の優しさ 7

 でもそれなら、今は四人暮らしってことになるのでは……。それに。   「腹違いって……」 「おまえ……大人のくせに鈍いな。先回りして考えればわかるだろ。ようするに、三樹の母親は愛人だったんだ」 「えっ! わ、わかんないよそんなこと! ――お父さん、浮気してたの」 「そういうこと」 「えっと、じゃあ今一緒に暮らしてるお母さんがその……相手」 「ピンポン」  空を見上げるシャープなラインの横顔が、やけに大人びて見えた。  なんか色々ハードだなあ……。  高校教師のお父さんが愛人を作って、しかも子供まで産ませてたってことが衝撃的だけど、(今時の高校教師は忙しくて土日休みなんてないようなもんだし)(部活の顧問をやってなかったのかもしれない)恐ろしくタフな人なんだろうなあと、それだけ思った。 「今、三人暮らしって」 「父親は……そんなこんなで学校クビになって、今は地方で教員やってる」 「そうなんだ」  単身赴任みたいなものだろうか。  これまでの話の流れ上、様々な疑問が浮かぶ中、彼が実の親である父親を、よく思っていないのは感じていた。けれど、三樹くんの母親とはいえ、元愛人の女性と暮らすことを、どう感じているんだろうか。 「俺の実の母親は」  五藤くんは続けた。 「元々、身体も精神面も弱い人で、父親のこともあって、身も心も疲れきってた。だから、母親には実家に帰ってもらって、俺は親父についていくのを決めたんだ。それに……俺は、前から知ってたんだ。三樹のこと」 こっちを向いてふっと笑った顔がすごく優しい目で、どきっとした。 「親父の浮気に気づいた俺の母親が、興信所に依頼してわかった。愛人に子供を産ませていたこと」  遠い昔話のように、五藤くんは語った。 「教職についてるくせに、親父のしたことは許せなかった。俺が小さい頃から生活態度や勉強にやたらに厳しくて威圧的で、曲がったことは許せないとか言ってたくせに、自分は外に女作って。それで母親は軽度のうつ病にかかったし、俺だって、さんざん悩んだ。でも、三樹の写真を見て心が揺れたんだ」  ふっと、表情がやわらかくなる。僕の胸もじんわり温かくなった。 「可愛いと思った。……俺に、血の繋がった弟がいたんだって、なにより喜びのほうが大きかったな。自分でも驚いたけど」 「そう……」 「変な感じだ」  同じ表情のまま、五藤くんは僕に視線を合わせた。 「……おまえの威圧的な態度は、嫌でも親父を連想させて、息苦しかった。まさか、そのおまえに話すことになるなんて、想像もしていなかったな」  真面目な顔でじっと見つめられ、僕はなぜかどぎどきしてしまった。もう、怖かったころの彼を思い出すことはないけれど、息苦しいのはどうしてなんだろう。  五藤くんは、のびをするように両腕を高く掲げた。 「なんかすっきりした。誰にも話したことなかったから、吐き出した気分だ。おまえ聞き上手だよな、さすが国語教師」  最後のセリフに、かるく頭を殴られた気がした。そうだ、僕は教師だ。五藤くんと同じ生徒じゃない。  

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