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五藤くんの元カノ 1
あの日を境に、屋上にスキンヘッドのマモルくんが頻繁に五藤くんを呼びに来るようになった。
また、エリナって子がからんでいるらしいけど。
弁当を食べ終わる頃に来るから、落ち着かないし、ろくに五藤くんと話せない。
五藤くんは毎回、「早めに教室へ戻るから、呼びに来るな」と念を押してるようだけど、決して強く言わない。
舎弟たちはエリナにずいぶんと気を遣っている様子で、毎回呼びに来てしまうようだ。
僕はエリナって名前の生徒に覚えがなかった。僕の担当クラスではなさそうだけど、その子は五藤くんの彼女なんだろうか。
でも、付き合ってる彼女が校内にいるなら、昼休みに無人の屋上に来たりするかな。
直接五藤くんに訊けばいいんだろうけど。そんな恋バナ関係の話はしたことないし、いくら仲が良くてもプライベートなことだし……。
エリナさんは五藤くんとランチしたいのかもな。
もしかすると、手作りのお弁当を毎回持参しているのかもしれない。そしたら僕は彼女の邪魔をしてることになるよな。
どうしよう、ほんとに訊いてみようか、五藤くんに。
でも、なんか、訊きにくい……。
自分でもわからない。なんでだろう? 仲良くなれたんだし、恋バナくらいしたっていいのに。
佐尾先生相手なら平気で話せるけど、五藤くんだとなんだか訊きにくい。
なんで?
もしかしてほっぺにチューされたから?
いや、あれは弟の三樹くんにするような感覚で、つい、しちゃった事故みたいなものだし。(僕は五歳児じゃないけどね!)
なんだか気になって仕方がなくて、授業のない時間帯に二、三年生の名簿を調べてみたけれど、エリナという名の女子生徒はいなかった。
週の初めの月曜日、僕は今日もいつものようにお弁当を二人分作ってきた。
今週はゆっくりランチできるかな……。
先週は三回、マモルくんが五藤くんを呼びに来た。五藤くんは、呼ばれればしぶしぶという感じで屋上から降りていく。
けれど、呼ばれない限りは屋上でのんびりしている。
屋上でランチするのをやめるつもりはないのだろうか。(そもそも弁当作りは僕が勝手にやっていることだけど)
「あー、今日も美味かった。ごちそうさん」
僕が食後のお茶を入れてる間、五藤くんは慣れた手つきで空の弁当箱を重ね、片付けてくれた。
「卵焼きは絶品だよな。毎日食っても飽きない」
「ほんと? へへ、実は姉ちゃん達にも好評だったんだー」
「そうだろ? 三樹にうっかり話したら、その卵焼き食べたい! って駄々こねてさ」
「あはは、可愛い」
会ったことのない三樹くんの様子を想像していると、五藤くんが僕に向かってちょいちょいと手招きした。
「ん、なに?」
「いいから、こっち来いよ」
なんだろう? と思いつつ僕は立ち上がらずに、ニメートルほど離れた五藤くんの傍まで這っていった。
すぐ隣に並んで座ろうとしたら、腋からすっと手が入り込み、ひょいと持ち上げられた。
「ひゃっ!」
一瞬宙に浮いた僕の身体がストンと降ろされたのは、五藤くんの身体の前だった。
びっくりして、え? と五藤くんの顔を見上げようとしたら、筋肉張った腕に拘束されてしまった。
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