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五藤くんの元カノ 2
何が起こっているのかわからず固まっていると、頭の上にずしっと重みを感じる。
「ちょっ、重……」
「あー、三樹よりデカいから高さがちょうど良いな」
「ちょうど良いって……。ねえ、重いんだけどー」
「このくらい平気だろ」
五藤くんは僕の頭に顔を乗せて寛いでるようだけど、重いし何より……。
この状況は何なの?
壁にもたれて座ってる五藤くんの長い足の間に僕の身体がすっぽり収まっていて、しかも後ろから抱き締められて頭に顔を乗せられてる状態なんだけど。
「あのさ、僕は五歳児じゃないんだけど」
「わかってるよ。おまえの方が三樹よりデカいからいいんだよ。三樹だと体重かけらんねーし。あー、楽ちん」
僕はちっとも楽ちんじゃないよ!
それどころか……さっきからドキドキしちゃってるよ。(だって頭のすぐ上から五藤くんの声がするし)
「忘れてるかもしれないけど、僕二十四歳なんだけど」
「知ってるし」
おかしくない?
友達同士でも、仲良くなったら普通こんな感じなの? 少なくとも、僕は友達とこんな風にベタベタしたのは小学校までだ。
僕の頭の中はグルグルとパニックを起こしていたけど、とりあえず本人に聞いてみた。
「えーと、五藤くんて友達とパーソナルスペース狭いんだね。マモルくん達にもそうなの?」
いや、五藤くんとマモルくんがこんな風に身体を密着してたら、別の意味での破壊力すごそうだけどね。
「はあ? キモ! あいつらにこんなことするわけないだろ! おまえは……ほら、三樹と同じ括りだから」
いいんだよ。と、誤魔化すように五藤くんは僕をぎゅうっと抱き締めた。
三樹くんの代わり? てゆーか、ペットかぬいぐるみ扱いじゃないのこれって。ペット代わりの教師って……どうなの?
いいのか悪いのか、ちっともわからなかったけど、五藤くんが僕の身体で癒やされるなら正直嬉しいって思った。なんでも有りの自由学園だし。
この前聞いた話だと、五藤くんは自宅にいるときは、ずっと三樹くんを膝に乗せたり、抱っこしたりしてるらしい。小学校に上がったら本人が抱っこを嫌がるかもしれないから、今のうちだって話してくれた。
だからまあいいか、と思うんだけど、その一方で不意にドキドキする自分がいるからちょっと困る。
あとは、抱き締められてるところをマモルくんに見られたら騒ぎになっちゃうだろうなってこと。
でも、僕の心配をよそに五藤くんは、僕の手作り弁当をもりもり食べて、食後は僕を抱き締めたりほっぺたを触りまくったりして過ごした。
頬へのキスは一切なくてホッとした。(だってドキドキしちゃうし)
♢
昼休み、早めに職員室に戻って来た佐尾先生が向かいの椅子にストンと座り開口一番に言った。
「あら、珍しい。つっくんがテラスで食べてる」
「うん……気分を変えたくて」
僕は、地味な色あいの手作り弁当をもそもそと食べていた。休み時間は半分以上過ぎたのに、まだ三分の一も残っている。
「美味しそうだけど、なんかおかずの色が茶色いわね」
言われて、僕は弁当の蓋を立ててサッと隠した。
「ほっといてよ。――佐尾先生、今日は早いね。カフェテリア空いてたの?」
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