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五藤くんの元カノ 4

「それよりごめんね邪魔しちゃって、大丈夫だった?」 「平気平気、もう片付けたから」  素早い。本当凄いなあ、佐尾先生。僕と同い年なのに、しっかりしてて仕事も早くて生徒に慕われてて。――羨んでもしかたがないけど。    僕の次の授業は六時限目だから(残念ながらE組以外)、空いた一時間は授業の予習やプリントの作成をするつもりだった。    作業を始めてから数分後、資料が足りないことに気付いた。簡単な小テスト用のプリントに必要な文献が不足しているのだ。 「えー……そんなあ~、地下に取りに行けってこと~?」  僕は脱力して机に突っ伏した。 「うう、嫌だよう……。五藤くんのいないときに限ってなんでこうなんだろ。あー、でも、今のうちに取りに行かないと」  最近は、地下の資料室に用があるときは必ず五藤くんに一緒に行ってもらっていた。一時、怖い思いとは無縁だったから完全に油断していた。 「もう時間がない……行くしかないか」  地下への階段を降りていくと、あっという間にひんやりジメッとした空気に包まれる。カビ臭も鼻をついた。  なんで資料室が地下にあるんだろう。職員室と同じ階とか、せめて図書室の近くにあればいいのに。  文句を言ってもしかたがないけど、怖いからさっさと行って帰ってこようと、僕はブツブツ文句を言いながら目的地へ急いだ。    ――ホントにツイてない……  資料室のちょうど棚の前の蛍光灯が切れていた。前に一人で来たときからチッカチッカしてたヤツだ。  そもそもここは、広さの割に照明が少ないのだ。  晴れていれば少しは明るく感じるけど、今日みたいな曇り空では光は一切入ってこない。  しかたがないのでスマホのライトで資料を探すことにする。真っ暗闇ではないから何とかなるだろう。 「えっと……あ、あった」  目的の本はすぐに見つかった。他にも参考になりそうな本を二冊引き抜いた。 「よし。これで大丈夫だな」  職員室へ戻ろうとして踵を返したとき、不意に、倉庫へ続くドアが視界に入った。    あの日、タバコの臭いを辿ってこのドアを開けた。  そして、足を滑らせた僕は五藤くんの上に倒れ込んで。  ゾクッとした。  あの時の怖い五藤くんを思い出したからだ。  でも、それだけじゃなかった。  薄暗い倉庫内で見た、鋭い五藤くんの目と、僕を甘やかして抱き締めたり、ほっぺたに触る五藤くんが頭の中に浮かんで。  怖いけど、僕の知ってる優しい五藤くんに、あの日みたいな目で睨まれたら。  怖いけど、怖くなくて、むしろ……。  きっと、凄くかっこいいって思っちゃうだろうな……。 「え? なんで?」  自分の思考にツッこんだ。  それってヤバいよ、変だよ! でも、想像したら凄くドキドキする。  あんなに目つきが悪くて乱暴な五藤くんなんて、怖いから二度と会いたくないはずなのに――なんでこんなにゾクゾクして、ドキドキするんだよ!  僕ってマゾ? マゾだったの?!  僕はその場で本を抱き締めグルグル回った。  そりゃ、SとMどっちかと問われればM寄りだとは思うけど!  「でも痛いのは嫌いだし絶対マゾじゃない!」

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