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五藤くんの元カノ 5
この場所のせいで、あの日の五藤くんをどんどん思い出してしまう。
早く職員室に戻らなくちゃいけないのに、あの日の倉庫の風景がフラッシュバックする。
シャツの前を引き裂かれ、大きな身体でのしかかられて身動きが取れなくなった。スラックスを脱がされて下半身がすうすうして、床が冷たかった。
五藤くんの目は、意地悪そうにギラギラしていた。
写真を撮られるのかと思ったけど、五藤くんはあの時、僕をどうするつもりだったんだろう。
――まさか、エッチな、こと……?
「わああ~、うそうそ、そんなわけないじゃん! バカじゃないの、考えすぎ!」
五藤くんが僕のほっぺに触ったり、抱きしめたり、スキンシップが頻繁だからって、変な想像するなよ! 僕は三樹くんの代わりなんだから、変な気持ちでやるわけがない!
そうだ、僕は三樹くんの代わりだ。
気まぐれで頬にキスされたけどそれも三樹くんと間違えたみたいだし。
たとえ僕が彼を好きでも、五藤くんはそんな気を起こすはずがない。
――え?
僕今、なんて思った?
五藤くんのこと……。
「あ、やっぱここにいたのかよ、捜したぞ」
「ひぇっ」
不意に耳に飛び込んできた声に、全身で驚く。
「あ、悪い。脅かしちまったか?」
「ごご、五藤くん! なんで!」
声で五藤くんだとわかったけど、薄暗いから顔は見えなくて大きなシルエットになっている。
でもタイミング悪すぎる。自覚した瞬間に本人が来るなんて。
――自覚……
「おい、大丈夫か?」
黒いシルエットの五藤くんが、心配そうに言った。
五藤くんがポケットに手を突っ込んだ後、ぱっと辺りが明るくなった。スマホのライトを点けたらしい。
「どうした、おまえ顔が赤いぞ。体調悪いのか」
「えっ、……あ、だ、大丈夫」
そんなにわかりやすく顔に出てる? ――ヤバい、これじゃバレちゃう、五藤くんに。
「熱でもあるのか」
五藤くんは、僕の額に手を当てた。
だめ、そんなことしたらますます顔が赤くなっちゃうし、別の場所に熱が集まっちゃう!
「熱はなさそうだけど、ほっぺたは熱いぞ」
「あっ……」
頬も触られて身体が敏感に反応してしまった。五藤くんに触られる場所が全部心臓になったみたいだ。
次に、大きな手のひらが頬から首筋にすっと降りた。
「んっ」
「……変な声出すなよ。なんか首も熱いな」
きみが触ってるからだよ!
好きだって自覚した直後にその人に触られるなんて、不意打ちすぎる。もう一人の僕がヤバいことになりそう。
「ホントに大丈夫! あの、さっきね、この本取るのにジャンプしてたから、きっとそのせいだよ!」
「ジャンプ?」
僕が適当に誤魔化すと、五藤くんは本棚にライトを当てた。
「……へえ」
僕が本を抜いた場所はわかりやすく一冊分スペースが空いている。後で戻すときにわかるようにするためだ。
その三カ所は、全部高い場所じゃなかった。僕の、頭の位置……。
なんでもう少し上手い言いわけを思いつかないんだろう。きっと嘘がバレちゃってる。
五藤くんはスマホのライトを固定して置いた。そして、僕の腕から三冊の本を抜き取ってそれもスマホの横に置く。
「……五藤くん?」
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