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五藤くんの元カノ 6
「体調に問題なくて、運動したわけでもないのに顔が赤い。――手も熱くない」
五藤くんは僕の両手を握って確かめた。ちっせー手だな。手首もほっせーな、とか呟いた後、更に僕に近づいた。
まさか、僕のこの状態に気付かれた?
僕が思わず目を閉じてビクビクしていると、ひょいと担ぎ上げられた。
「ひゃっ、ちょっ……」
「おまえ、相当疲れが溜まってるんだよ。保健室まで運んでやるから寝とけ」
そんなに密着したら、もう一人の僕に気付かれちゃう!
グッと、その部分が、五藤くんの身体と接触して……。
「ふぇっ……」
変な声が出た。
左腕で僕を抱えて、右手で本とスマホを手に取った五藤くんの動きが止まった。
「懐中電灯でも持ってるのか? なんか硬いものが背中に……」
それ……もう一人の僕です。――って言えるわけないから「べ、ベルトかも、今日バックルが大きいやつ付けてきたから!」ってまた誤魔化した。
しん、と静かになった。
五藤くんは黙ってスマホをタップした。
僕はひやひやして変な汗が出てきたから、放して欲しかった。だって、もう一人の僕が、これでもかって位に存在を主張してきてるし!
「まだ、時間あるな」
「え?」
五藤くんはスマホをライトにして、本と一緒に棚に置いた。そして僕を抱え直した。
「あ、ちょっと」
五藤くんの手の平が、僕のお腹の下まできた。
「ひっ」
すすっとその手は更に降りて、有ろう事か僕の分身に触れた。
「あっ、だめ!」
「なんだそっか……おまえも男だったな」
やけに感心した口調で言われる。
「やだ、触んないで!」
大きい手の平が、僕の形を確かめるように動いた。
「あ、ちょっと、ダメ、やめて」
「このままじゃ辛いだろ」
今の状態が辛いんだってば! いきなり好きな人に、スタンドアップした股間を触られるなんて!
五藤くんの手が動くたびに身体がビクッて撥ねて、ほんとにヤバい。五藤くんの手の平が熱くて、気持ちいいのと怖いのが交互に襲ってきて、キャパシティが限界になりそう。
「だめ、ほんとに、無理!」
「すぐ済むからじっとしてろ」
「や……」
耳元で低い声がダイレクトに響いた。目をつむっていた僕の視界は真っ暗で、だから余計にその声が熱くなってる下肢にも伝わって。
「ほんとにやめて! こんなの、罰ゲームみたいじゃん!」
ビク、と五藤くんの身体が反応した。
「あっ……」
ちょっと、今のは言い過ぎだったかも。
五藤くんは黙ってしまったし、僕も何も言えなくて(息を整えるので精一杯だし)急にシン、と静かになった。
二人分の呼吸音だけが聞こえる。
「悪い。つい、止まらなくなった……調子乗りすぎたな」
「うん……」
五藤くんは悪戯してた手を退かすと、僕の身体をひょいと持ち上げ膝に乗せて、冷たい床に座った。
正面から抱き締められる格好になり一瞬驚いたけど、大きな手があやす様に僕の髪を撫でるから、徐々に落ち着いてきた。
はーっと、気だるげなため息が頭部をかすめた。
「ごめんな。――怖かったか?」
「ちょっとだけ」
「悪い」
五藤くんは分かりやすく反省しているみたいだった。ちょっと項垂れて、元気のない大型犬を連想させた。僕の方からも、ヨシヨシと頭を撫でたくなる感じ。
「もうー、じゃあ、しょうがないから許してあげる」
「ん……」
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