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寂しくて 1

 僕はしばらくの間、屋上へ行かないことを五藤くんに告げていた。    仲良くランチしている現場を、もしもマモルくんに目撃されたらって思うとヒヤヒヤして落ち着かないし、彼に多大な迷惑をかけてしまう。  僕は先日、資料室で五藤くんへの想いを自覚してしまった。  その後本人にばったり遭遇して、恥ずかしい悪戯ををされそうになった。    五藤くんに僕の気持ちはバレてないだろうけど、好きな人にあんなことされて、我慢できずに変な声も出しちゃうし、思い出すだけで、わあーっと叫んでそこらじゅうを走り回りたくなる。    これからどんな顔をして五藤くんに会えばいいのか全然わからなくなってしまった。  だから、二人きりの、のんびりお弁当タイムもしばらくお預けなのだ。  淋しいけど。 『おまえの弁当食えないのは残念だけど、しかたがないな』  五藤くんは残念そうに、そう言ってくれた。  五藤くんに悪気はなかったはずなのに、僕は思わず『残念なのは弁当だけ?』と、聞きそうになってしまった。自分から言い出したくせに、勝手なことを考える自分にヘコんだ。  ――つくづく僕は情けない大人だ。 ♢ 「つっくん、お疲れ~。――って、大丈夫? なんかヘロヘロじゃないの」 「……うん。朝ご飯食べ損ねたもので」  僕は抱えた二、三冊の教材をやけに重く感じながら、答えた。 「そうなの? ちょっとー、大事なメガネがズレてるわよ」  ひょいと細い腕が伸びて、メガネを元の位置に戻してくれる。 「ありがと」  僕は今日、弁当を持参していない。自分だけの弁当は張り合いがなくて作る気が起きなかったのだ。以前は普通に一人分作っていたのに。 「食堂よ。お誘いを順番に受けるから、日替わりで可愛い子たちと一緒」  明るくて、気さくで、美人だけど気さくな彼女は、男女問わず生徒に人気がある。僕とは雲泥の差だ。……うらやましいけど、これが自分の選んだ道なのだ。  ――僕だって、前の学校じゃなかなかの人気者で……。    うっかり、思い出したくないことまでがよみがえり、胃のあたりがギュッとしめつけられる。呼吸が浅くなった。 「そうそう、E組の五藤くん」  いきなりその名前が出て、ぐっと息がつまった。ゴホゴホと咳きこむ。  まさか五藤くんとのランチを知られているのかと、佐尾先生の顔を涙目で見た。ほっそりとした手に背中を叩かれ更にむせる。意外と力強い。 「ありが…とう」 「ちょっと、大丈夫? ほら、つっくんに反抗しまくりの五藤くんよ」 「あ、ああ、うん」  なんだ、偶然か。そりゃそうだよな。ぼくは胸をなでおろした。 「最近彼、変わったのよね。なんか、雰囲気が優しくなったっていうか。いい感じ。以前は威圧的だったのに」 「そ、そう?」 「そうよ! つっくん気づいてないの」  テーブルをとんっと叩き、彼女は、信じられないというような顔を僕にむけた。 「ほかの教科の先生からも、彼の良い評判耳にするわよ。つっくん、にぶすぎ!」  そのとき、通りかかった年配の教員が、にこにこしながら会話に参加してきた。

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