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寂しくて 2

「あ、二年E組の五藤くんでしょ、僕なんかこの前、廊下で落としたチョークを彼に拾ってもらいましたよ。いや、驚いたなあ」  彼は心底感心した様子でうなずいている。  そうでしょ、五藤くんは、すごくやさしい子なんだよ。二人の会話に耳を傾けながら、僕は自分が褒められたように嬉しくなった。   ♢  二週間だ。――もう二週間、五藤くんと話せていない。  廊下ですれ違っても、常に取り巻きが周りを固めているから声をかけられないし、アイコンタクトすらかなわない。  僕にとって、彼と一緒に過ごす時間がどれだけ貴重だったのか、思い知らされる。あの心地よい空気。気持ちがほぐれて、リラックスする自分。  ラインは頻繁にするけれど、学校で誰かに見られたらと気が気じゃなくて、夜に送るようにしていた。  間を入れず返信をもらって安心しても、やっぱり直接会って話したい。なんだか、片思いの相手に逢うのがかなわないようで、切ないよな。  ――って! まんま、片思いの相手だけどね!  ああ、そうだった。僕、ほんとに五藤くんのこと好きになっちゃったんだよなあ。僕はこんなだけど一応教師だし、五藤くんもあんなだけど一応生徒なのに。 「五藤くんに会いたい……おしゃべりしたい……」  くだらないセリフを吐く僕に、びしっと突っ込みを入れてほしい。  二年E組の授業では、五藤くんばかり見てしまうし、つい、彼の席の周囲をうろうろしてしまう。  他の生徒の前で親しく話せるはずもないのに、同じことを繰り返す。  おかげで、取り巻きに冷たい視線を毎回向けられる始末だ。    数人の女子と、スキンヘッドのマモルくん、金髪のカジくん。特にカジくんの視線は鋭い気がするんだけど気のせいかな。怖いからやめてほしいんだけどな。 「はああ~今なら出血大サービスで、お触りし放題なのに~。って……何言ってんの……」  職員室の机に突っ伏し、おでこをゴリゴリ擦り付け、うじうじと考えた。食べてくれる人がいないと張り合いがないから作る気も失せて、しばらく弁当も作っていない。前はこんなことなかったのに。 「今日の昼ご飯、どうしようかなー」  購買で惣菜パンや紙パックのドリンクでも買うか、あるいはあまり食欲がないから抜いてしまおうかと考える。  そういえば、夜も食欲がないときは抜いているし、その影響から睡眠も浅い。教職につく人間が、自己管理できないなんて、聞いてあきれる。  けれど、本当に最近は胃の調子もイマイチなのだ。    そのあたりを手の平でスリスリさすっていると、授業を終えた佐尾先生が真っ直ぐ僕の方へ歩いてきた。 「つっくん、今日もお弁当持ってきてないなら、食堂行かない?」 「佐尾先生……僕、あんま食欲ない」 「そんな子供みたいなこと言わないで、たまには付きあってよ。今日はあたし、フリーなの」  強引に腕をひっぱられ、抵抗する気力もなかった僕は、佐尾先生に引き摺られるようにして職員室を出た。  食堂に入るのは二度目だった。初登校日に案内されてここへ来たきりだった。    

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