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寂しくて 3
自由な校風のイメージ通り、教師も生徒もわきあいあいと寛いでいた。これぞ理想の学校、という雰囲気に感心したのを覚えている。
メニューが豊富で、値段はリーズナブル。テーブル数も多く、持参した弁当も、ここで食べられる。ほとんどの生徒が、昼休みを食堂で過ごすようだった。
春と秋には大きなガラスのドアが解放され、テラス席も利用できる。まるで大学かオフィスの食堂並だ。
佐尾先生は、量が少なめのレディースセット。僕は日替わりランチに決めた。比較的人の少ない、窓際のテーブルにトレイを置いた。
この季節、晴天なら暖かいが、曇りや雨天は冷たい風が入ってくるから、自然と窓際が空くことになるのだ。用意のいい佐尾先生は、ストールを持参しているようだった。
「あー、おなかすいた! いっただきまあーす」
「いただきます」
美味しそうに箸をすすめる佐尾先生と対照的に、向かいに座る僕の箸は重かった。食欲の秋なのに、胃にすきまを感じない。相手が佐尾先生という甘えもあって、僕は行儀悪く頬杖をついた。
さっきから、佐尾先生を見て顔を綻ばせる生徒が、次の瞬間僕の姿を確認して固まる。そんなのを何人か見送り、しぶしぶ食べようかと箸を伸ばした。
するとその時、けたたましい女の笑い声が、にぎやかな食堂内に響き渡った。反射的に声の方へ顔を向けると、明るいブラウンの髪をきれいにカールさせた、女子の後ろ姿が見えた。
周囲を囲んでいるのは男子ばかり、逆ハーレム状態だ。
なんとなく僕は、視点の定まらない目でその光景をながめた。
白く鼻筋の通った横顔が、何度か入り口へ顔を向けている。誰かが来るのを待っている仕草だ。男子達が笑わせているのか、時折その髪や肩が揺れている。
あの男子生徒達、五藤くんの周りの子達だよな……。マモルくんとカジくんはいないけど、見覚えのある顔が見えた。
僕の視線の先に気づき、佐尾先生もそっちを見た。何かを思い出したような表情になる。
「あの子、塩谷エリナだわ。今年の卒業生よ。確かお嬢様系の短大へ進学したって聞いてる。すごく目立つ子だったから覚えてる」
「へえ」
確かに彼女のフェミニンな装いは、カジュアルが多い女子生徒の中で、ひと際浮いている。
「もしかして、五藤くんに逢いに来たのかな」
「……え?」
その名前が出たとき、僕の体温がじわりと上がり、記憶の一片が弾かれた。
あの日、スキンヘッドのマモルは、“エリナ”のために屋上まで五藤くんを呼びに来たのだ。彼女の笑い声にエコーがかかった。
「あの子、“ミス自由学園”に選ばれるくらい人気があったのよ。生徒会長と付き合っていたんだけど、五藤くんが入学したら、すぐ乗り換えたらしいわ。噂だけどね」
「今も付き合ってるのかな」
何の感情も持たずに僕は疑問を口にした。
「わからないけど、卒業したのに来るんだから、そういうことなんでしょうね」
「へえ……」
――失恋決定――
いやいやいや、何言ってるんだ、そもそも僕と五藤くんは教師と生徒だし、男同士だし。
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