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寂しくて 5

 少し眠ったのだろうか、身体が楽になった気がする。 「顔色、戻ってきたな。どうだ、楽になったか」  五藤くんが、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。まぬけな寝顔を見られたかと思うと、恥ずかしかった。 「ごめんね、迷惑かけて……あ、時間、大丈夫?」 「五時限まで、まだ十五分ある」  ベッド脇の折りたたみ椅子に、長い足をもてあまして彼は座っていた。久しぶりの二人きりの時間に、僕の胸は淡くうずいた。    さっきまでの沈んだ気分が遠のいて、なんだか安心した心地になる。 「今日も養護の先生不在の日だった。おまえ、つくづくツイてないな」    入り口のカレンダーを指で差しながら五藤が言った。 「そんなことないよ」 「ん?」 「だって、養護の先生がいたら、五藤くんがここにいてくれないでしょ」  僕の口から、するりと本音が出た。具合が良くなり、リラックスしているせいかもしれない。    五藤くんは、少し驚いた顔をした。長い前髪をさらりとかきあげ、視線を僕から外した。僕は彼の鼻筋から顎へぱらりと流れる黒髪に、しばし見とれた。  この髪に、塩谷エリナは触れたのだろうか。 「……ったく、なにガキみたいなこと言ってんだ。本当に三樹とおなじレベルだ」    僕の口は、調子よくさらに動いた。 「最近、五藤くんと話せなかったでしょ、だから、……なんか落ち込んで、寂しくて」  寂しい、という単語に反応したのか、五藤くんは形のよい眉をしかめた。長い指がすっとのびて、僕の前髪に触れた。 「変なんだ、孤独をやけに意識しちゃうっていうか……。前は平気だったのに。僕、立場的にこんなこと言うなんて、なさけないのはわかってるけどさ」  五藤くんの指先は、僕の猫っ毛をもしゃもしゃと摘んだ後、ふわふわと撫でてくる。 「おまえの髪、柔らかいな。まじでなんかの小動物っぽい」  その優しい手つきと動きが気持ちよくて、まぶたが重くなる。 「ずっと無理してたから、そのしわ寄せがきたんじゃないか? おまえ鈍そうだから、遅れてきたんだろ」 「ひどい~」 「ふくれるなよ。それに、別に立場とか関係ないんじゃないか。ここは、なんでも自由な“自由学園”だし」  口調は素っ気ないけど、五藤くんの優しさに胸がきゅんとする。    そんなに優しい目で見つめられたら、調子にのってもっと甘えたくなってしまうのに。 「それよりおまえ、ちゃんと飯作って食ってんのか? ひと回りちっこくなってるじゃねーか。軽くて驚いたぞ」  僕は口を尖らせた。 「だってー、腹減らないんだもん。一人で食べても、美味しくないし」 「おまえな……俺は小学生の見舞いに来た気分になってきた……。大人のくせにまじでしょうがねーな」 「えへへ、五藤くん僕のお父さんみたい」  五藤くんは大袈裟に頭を抱えた。 「はあ? ピチピチの男子高校生つかまえて何言ってんだまったく……」 「ピチピチって、五藤くんには似合わない~」 「うるせ」    塩谷エリナのことが気になるけど、この他愛のないやり取りが久しぶりで、僕の落ちていた気分はどんどん上昇していった。やっぱり僕は……。 「五藤くんと話せてうれしいな。やっぱ僕好きなんだよなー、五藤くんと話すの」 「そりゃまあ、俺だって、好きじゃなきゃこんな………おい、そういう恥ずかしいことを平気で口にするな。まじで三樹みたいなやつ」

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