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寂しくて 6

 五籐くんの頬が、ほんのり赤くなっている。こんな表情を知ってるのは僕だけならいいのにって思ってちゃうなあ。 「そっか、三樹くんはいつも『お兄ちゃん大好き!』とか言ってるんだね」 「……あいつは五歳だからいいんだよ」   ふふって僕が笑うと、五藤くんも目を細めた。保健室で五藤くんと二人きり、和んだ空気が心地いい。  と、その時着信音が響き、その空気がぱっと乾いたものに変わってしまった。  五藤くんは着信を確認すると、ふっとため息をついた。塩谷エリナかもしれない。    彼女のことを聞きたいのに、(いや聞ける立場じゃないけど)(てゆーか僕が訊いたら変だけど)僕は途端に気分が落ちてしまった。口も重くなる。  スマホをポケットに仕舞うと、五藤くんは僕に向き直った。 「なあ、明日から俺の分も弁当頼んでいいか。作るのは好きなんだよな。それで自分の分も作って、しっかり昼飯食えよ」 「え?」 「一緒に食うのは無理だけど、誰かと食堂に行けばいい。俺もそうする。おまえがちゃんと食ってるか、チェックするからな」 「五藤くんの弁当作るのはいいけど……」  一緒に食べられたらいいのに、としゅんとする僕に、五藤くんは諭すように言った。 「佐尾とか、他の教師なら気をつかわないだろ」 「そうだけど」 「おまえの変化は、女子連中が敏感に気づいてるぞ。クラスのやつも何人か、そんな話してたし。そのうち、誘われるかもしれないな」  五藤くんは僕のために言ってくれているのに、またいつかのように突き放された気になった。その原因はわかっているけど……。      でも、僕のためを思って考えてくれたんだから、その好意は無駄にしたくない。    僕は、五藤くんに安心してほしかったから、しぶしぶうなずいた。すると五藤くんは、わかりやすく安堵の表情を浮かべた。  五藤くんとこんなに仲良くなれただけでも、本当はラッキーなことなのに、最近の僕はすっかり贅沢になっちゃったよなあ。    彼の姿が視界から消えたら、僕はまた置いていかれたような気持ちになったから、本当に情けない。  五藤くんは好きな人だけど、立場が違う。僕は教師なんだから。  ――僕って、五藤くんに依存してるのかな。頼りすぎ?  大勢の生徒の中で、自分の本心をさらけ出せる、唯一の存在。そんでもって、男子なのにうっかり(?)好きになっちゃって。    それに、体調が悪かったとはいえ、食堂で塩谷エリナのことを聞いたとき、激しく動揺して急速に体調が悪化するなんて、本当に、どうかしてる。  教師として、二十四歳の大人として、それはどうなんだ。やばいよな、かなり。    あーあ……。

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